第120話 違和感
文字数 588文字
「ずっとわたしは母の哀しみを見てきました。愛する者に愛されない哀しみを」
語る和臣の表情からも、母の──霧江の愛されなかった者の悲哀が伝わってくるようだ。
「わたしは誓って、あなたにそのような思いはさせません。ですから、どうか、わたしの妻に……」
懇願するように和臣は手を差しのべる。
だが桜花は彼の手を取ることができない。
「なぜです? 確かにあなたは天宮の巫女。わたしとて悩まなかったわけではありません。だが、あなたのおじいさまはおっしゃってくださった。たとえ巫女の座を辞しても、あなたの力は失われはしないと。あなたの母上もそうであったと」
「……」
無言でうつむくしかできない桜花に、和臣の声がわずかに苛立つ。
「伊織、ですか?」
桜花の肩がびくっと揺れ、和臣は苦笑した。
「あなたは本当に正直だ。自分の心を偽れない」
ふと不穏な気配を感じたのは、そんなやりとりの最中だった。
何だろう、この違和感は。
そっと周囲の気配をうかがい、その禍々しさが眼の前の和臣から発せられるものだと気づいた時。湧き上がってくる畏怖に桜花は一歩後ずさった。
「桜花どの? どうかなさいましたか」
不思議そうに首をかしげ、桜花を見る姿は確かに和臣だ。
けれど違う。何かが、違う。
語る和臣の表情からも、母の──霧江の愛されなかった者の悲哀が伝わってくるようだ。
「わたしは誓って、あなたにそのような思いはさせません。ですから、どうか、わたしの妻に……」
懇願するように和臣は手を差しのべる。
だが桜花は彼の手を取ることができない。
「なぜです? 確かにあなたは天宮の巫女。わたしとて悩まなかったわけではありません。だが、あなたのおじいさまはおっしゃってくださった。たとえ巫女の座を辞しても、あなたの力は失われはしないと。あなたの母上もそうであったと」
「……」
無言でうつむくしかできない桜花に、和臣の声がわずかに苛立つ。
「伊織、ですか?」
桜花の肩がびくっと揺れ、和臣は苦笑した。
「あなたは本当に正直だ。自分の心を偽れない」
ふと不穏な気配を感じたのは、そんなやりとりの最中だった。
何だろう、この違和感は。
そっと周囲の気配をうかがい、その禍々しさが眼の前の和臣から発せられるものだと気づいた時。湧き上がってくる畏怖に桜花は一歩後ずさった。
「桜花どの? どうかなさいましたか」
不思議そうに首をかしげ、桜花を見る姿は確かに和臣だ。
けれど違う。何かが、違う。