第28話 孤立無援
文字数 738文字
奥方の部屋から退出した桜花は、唇をぎゅっと結んで廊下を歩いていった。
思いもしなかった仕打ちに涙がにじんで、周囲の景色がぼやけて見える。
そのまま歩き続けて廊下の曲がり角まで来ると、桜花は立ち止まった。
あたりには誰もおらず、桜花は目元を押さえ、くすんと鼻を鳴らす。ここまで来れば、もう泣いてもいいと思った時だ。
「桜花? こんなところでどうした?」
唐突に声をかけられ、どきっとして桜花は振り返った。
いつの間にか、そばには伊織が立っている。
「確か、今日は奥方さまに目通りするはずでは……もう終わったのか?」
桜花の両の瞳から、涙がぽろっとこぼれ落ちる。
伊織の顔を見たとたんに気がゆるんで、桜花はわっと泣き出した。
「お、桜花? いったい何があった?」
状況が全くわからず、あわてふためく伊織に、桜花は眼をこすりながら、ぽつりぽつりと先刻の出来事を話していく。
「まるで、嫁いびりされているような気分だったわ」
「はあ?」
ぷっと吹き出す伊織に、桜花は頬をふくらませて抗議する。
「ひどいわ! 笑うなんて。わたしが真剣に悩んでいるのに」
「ああ、悪い。だが、嫁いでこられたのは藤音さまであろう? なのにどうして桜花が嫁いびりされるんだ?」
「白河の侍女たちに囲まれて、孤立無援だったのよ」
「確かにあの侍女たちは強者 ぞろいとの評判だからな」
二人は顔を見合わせ、桜花は泣いていたにもかかわらず、つい笑ってしまう。
伊織といる時が一番ありのままの自分でいられる気がする。いつも伊織は自分を巫女ではない、ただの桜花として見てくれるからだろう。
思いもしなかった仕打ちに涙がにじんで、周囲の景色がぼやけて見える。
そのまま歩き続けて廊下の曲がり角まで来ると、桜花は立ち止まった。
あたりには誰もおらず、桜花は目元を押さえ、くすんと鼻を鳴らす。ここまで来れば、もう泣いてもいいと思った時だ。
「桜花? こんなところでどうした?」
唐突に声をかけられ、どきっとして桜花は振り返った。
いつの間にか、そばには伊織が立っている。
「確か、今日は奥方さまに目通りするはずでは……もう終わったのか?」
桜花の両の瞳から、涙がぽろっとこぼれ落ちる。
伊織の顔を見たとたんに気がゆるんで、桜花はわっと泣き出した。
「お、桜花? いったい何があった?」
状況が全くわからず、あわてふためく伊織に、桜花は眼をこすりながら、ぽつりぽつりと先刻の出来事を話していく。
「まるで、嫁いびりされているような気分だったわ」
「はあ?」
ぷっと吹き出す伊織に、桜花は頬をふくらませて抗議する。
「ひどいわ! 笑うなんて。わたしが真剣に悩んでいるのに」
「ああ、悪い。だが、嫁いでこられたのは藤音さまであろう? なのにどうして桜花が嫁いびりされるんだ?」
「白河の侍女たちに囲まれて、孤立無援だったのよ」
「確かにあの侍女たちは
二人は顔を見合わせ、桜花は泣いていたにもかかわらず、つい笑ってしまう。
伊織といる時が一番ありのままの自分でいられる気がする。いつも伊織は自分を巫女ではない、ただの桜花として見てくれるからだろう。