第5話 まだ見ぬ花嫁
文字数 496文字
「ご領主ともあろうお方が、妙な学問に熱中するのはお止めくださいませ」
しかつめらしく伊織が言うと、
「この草薙は小さな国だから、金を作ることができれば領民たちも豊かになれると思うのだけど」
「金など簡単に作ることができれば 苦労はありませぬ」
話が横にそれていきそうなのを察して、桜花がそっと袖を引き、伊織はやっと本来の目的を思い出した。
「今は錬金術などやっている場合でございません。白河から花嫁が到着いたします。早くお仕度をしなくては」
「そうだね。承知してはいるけれど……」
主の瞳が翳るのを見て、伊織も表情を雲らせる。
「お気が進みませぬか」
隼人はため息をひとつこぼし、誰にともなくぽつりと問いかけた。
「どんな方なのだろうな。顔も見たことのない、わたしの花嫁は」
「とても美しい姫君と聞いております」
それ以上は伊織も答えようがなかった。この城では誰も、嫁いでくる藤音 姫の人柄など知らないのだ。
なぜならこの婚儀は和睦の証。いわば盟約のための縁組だったのである。
しかつめらしく伊織が言うと、
「この草薙は小さな国だから、金を作ることができれば領民たちも豊かになれると思うのだけど」
「金など簡単に作ることができれば 苦労はありませぬ」
話が横にそれていきそうなのを察して、桜花がそっと袖を引き、伊織はやっと本来の目的を思い出した。
「今は錬金術などやっている場合でございません。白河から花嫁が到着いたします。早くお仕度をしなくては」
「そうだね。承知してはいるけれど……」
主の瞳が翳るのを見て、伊織も表情を雲らせる。
「お気が進みませぬか」
隼人はため息をひとつこぼし、誰にともなくぽつりと問いかけた。
「どんな方なのだろうな。顔も見たことのない、わたしの花嫁は」
「とても美しい姫君と聞いております」
それ以上は伊織も答えようがなかった。この城では誰も、嫁いでくる
なぜならこの婚儀は和睦の証。いわば盟約のための縁組だったのである。