第33話 案じる者

文字数 551文字

 如月が蒼白な顔で考えを巡らせていた、ちょうど同じ頃。
 城では他にも藤音を案じる者たちがいた。隼人と桜花である。
「藤音さまのお加減がよくないとうかがいましたが」
 隼人の私室で、向かいあって座った桜花が遠慮がちにたずねると。ええ、と隼人は深刻な表情でうなずいた。
「薬師は気鬱(きうつ)の病だろうと言っていました。本当はしばらく実家へ帰した方がよいのでしょうが、この縁組は和睦の証ゆえ、簡単に里帰りもできないし……」
 桜花はどう答えていいかわからず、手元に視線を落とす。
 目通りの時にあれほど頑なに拒絶されては、見舞いに行くこともはばかられる。
 隼人も気にかけてはいるのだが、顔を合わせればますます藤音を傷つけてしまいそうな気がして、あの日から一度も会っていない。
 自分はどうすればよいのか、すがるように問うた細い声と、瞳からとめどもなくあふれる涙。藤音が悲しむ姿は見たくなかった。
 気鬱の病か、と隼人はぽつんとつぶやいた。
「藤音は、ひどく重い荷をひとりで背負っているようなものだから……」
 わざと曖昧にするもの言いに、桜花も余計な詮索はしない。ただ隼人が辛そうにしている様子に胸が痛む。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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