第61話 封じの岩へ
文字数 610文字
「そろそろ天宮のお屋敷に帰る時刻だろう? 送っていこう」
水平線にかかる金色の陽に眼をやりながら、伊織はさらりと言う。
素直に礼を述べて、桜花は伊織の好意を受けることにした。
本来なら送ってもらうほどの距離でもないのだが、これから例の岩の様子を見にいかなくてはならない。
伊織が一緒なら、自分ひとりよりはるかに心強い。
「屋敷に戻る前に、遠回りになるけど寄っていきたいところがあるの。いいかしら?」
「別にかまわんが、どこへだ? 団子屋か?」
桜花はあきれて違うわ、と答えた。どうして伊織はこうも呑気なのだろう。
「じゃあ、どこだ?」
「あまり楽しい場所ではないわね。鬼封じの岩よ」
鬼封じの岩は九条の館から海辺へ出て西の方角へ、弓なりになった砂浜の突き当りにある。
茜色に染まる海原を眺めながら、桜花と伊織は目的の場所へと歩いていた。
吹きすぎる潮風が頬に心地よい。
ただの散策だったら申し分ないのだが、桜花はどうにも気が重い。
そんな雰囲気を察したのか、伊織がたずねてくる。
「先ほど言っていたな。鬼封じの岩とは?」
「名が示す通り、遠い昔、鬼が封じられたという岩よ。長い歳月がたって封印の効力が弱まっているのではないかと、おじいさまが言っていた。わたしも一度、禍々 しい気配を感じたわ」
水平線にかかる金色の陽に眼をやりながら、伊織はさらりと言う。
素直に礼を述べて、桜花は伊織の好意を受けることにした。
本来なら送ってもらうほどの距離でもないのだが、これから例の岩の様子を見にいかなくてはならない。
伊織が一緒なら、自分ひとりよりはるかに心強い。
「屋敷に戻る前に、遠回りになるけど寄っていきたいところがあるの。いいかしら?」
「別にかまわんが、どこへだ? 団子屋か?」
桜花はあきれて違うわ、と答えた。どうして伊織はこうも呑気なのだろう。
「じゃあ、どこだ?」
「あまり楽しい場所ではないわね。鬼封じの岩よ」
鬼封じの岩は九条の館から海辺へ出て西の方角へ、弓なりになった砂浜の突き当りにある。
茜色に染まる海原を眺めながら、桜花と伊織は目的の場所へと歩いていた。
吹きすぎる潮風が頬に心地よい。
ただの散策だったら申し分ないのだが、桜花はどうにも気が重い。
そんな雰囲気を察したのか、伊織がたずねてくる。
「先ほど言っていたな。鬼封じの岩とは?」
「名が示す通り、遠い昔、鬼が封じられたという岩よ。長い歳月がたって封印の効力が弱まっているのではないかと、おじいさまが言っていた。わたしも一度、