第184話 光へと

文字数 529文字

 伊織は跳躍し、金色(こんじき)に輝く刀で一気に異形の獣を切り裂いた。
 一瞬の間の後に巨体がどさりと倒れ、断末魔の声を響かせながら消滅していく。
 が、ほっとしたのも束の間、すぐさま別の獣が次々と姿を現す。これではきりがない。
「桜花、走れるか?」
 ええ、とうなずく桜花の手を握り、伊織は洞窟の出口へと向かって走り出した。
 桜花をかばいつつ、時に追ってくる獣を切り伏せ、ひたすら走る。
 ここから出られたら、話したいことがたくさんある気がする。
 何から話そう。みゆが天女の転生だと知ったら、桜花はさぞかし驚くだろう。
 それから、ようやく心の通いあった隼人と藤音が、桜花の身をとても案じていること。
 そして兄が求婚を取り下げに来てくれた件を伝えて、今度こそ自分がきちんと想いを形にしなくては。
 前方にかすかに光が見えてくる。黄泉の境界だ。
 この闇を抜ければ、守護石と天女が導いてくれる。
 もう──離れない。
 自分たちを隔てるものなど、何もない。
 固く手を結んで二人は走り続ける。
 光をめざして。現世(うつしよ)で共に生きてゆくために。







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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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