第36話 形見
文字数 530文字
如月がいつまでも頭を下げたままなので、
「よくわかりませんが、とにかく面を上げてください」
隼人がうながすと、ようやく如月は顔を上げた。
「婚礼の夜のこと、藤音さまからつい先ほど耳にいたしました。わたくしがついておりながら、あのような出来事があったとは……。すべてはこの乳母の責任でございます」
「別に如月のせいではないでしょう。それにもう済んだことです」
如月は驚愕して隼人を見た。
下手をすれば殺されていたかもしれないのに、こうもあっさりと「済んだこと」にできるものなのだろうか。
どうもこの殿は変わり者というか、とんでもないお人よしのようだ。
隼人は立ち上がると、部屋の隅に置かれた文机の引き出しから懐剣を取り出した。
「これはわたしがあの夜に藤音からあずかっておいた品です。おそらくは大切なものでしょう」
黙ってやりとりを聞いていた桜花は物騒な品の出現にどきりとした。あの夜、何が起こったのか、おぼろげながら輪郭がわかってくる。
「藤音がもう少し落ち着いたら返してあげてください」
手渡された懐剣を見て如月は息を呑んだ。
「これは、柾 さまの形見……」
出陣する前に柾が藤音に贈ったところを如月も見ている。藤音はこの懐剣で弟の仇を──隼人を殺めるつもりでいたのだ。
「よくわかりませんが、とにかく面を上げてください」
隼人がうながすと、ようやく如月は顔を上げた。
「婚礼の夜のこと、藤音さまからつい先ほど耳にいたしました。わたくしがついておりながら、あのような出来事があったとは……。すべてはこの乳母の責任でございます」
「別に如月のせいではないでしょう。それにもう済んだことです」
如月は驚愕して隼人を見た。
下手をすれば殺されていたかもしれないのに、こうもあっさりと「済んだこと」にできるものなのだろうか。
どうもこの殿は変わり者というか、とんでもないお人よしのようだ。
隼人は立ち上がると、部屋の隅に置かれた文机の引き出しから懐剣を取り出した。
「これはわたしがあの夜に藤音からあずかっておいた品です。おそらくは大切なものでしょう」
黙ってやりとりを聞いていた桜花は物騒な品の出現にどきりとした。あの夜、何が起こったのか、おぼろげながら輪郭がわかってくる。
「藤音がもう少し落ち着いたら返してあげてください」
手渡された懐剣を見て如月は息を呑んだ。
「これは、
出陣する前に柾が藤音に贈ったところを如月も見ている。藤音はこの懐剣で弟の仇を──隼人を殺めるつもりでいたのだ。