第141話 慈しみ
文字数 645文字
「白河の実家にはわたくしは病で死んだとお伝えください。さすれば和睦は守られましょう」
そう告げると藤音はまた儚げに微笑した。
覚悟を決めた者の静かな顔だった。
「短い間でしたが、殿とご一緒できて幸せでした。もしも生まれ変わりというものがあるのなら、今度、生まれた時はただの娘としてあなたさまの妻に……」
言い終わらないうちに藤音は息を呑んだ。刃を自分に向けていた藤音の手に、隼人の手が重ねられたのだ。
隼人は力をこめ、懐剣を藤音の手から奪おうとする。強い意志を宿した、まっすぐなまなざしで。
「死なせはしない。藤音、そなたはわたしの妻だ!」
が、鬼も邪魔だてさせまいと、藤音の手を操って懐剣を隼人に向けさせる。勢いをつけた刃の先が隼人の頬をかすめ、鮮血が滴り落ちる。
「つっ……」
「隼人さま!」
頬に手をやって顔をしかめる隼人に、藤音が悲鳴のように名を呼ぶ。
「もうよいのです。わたくしなど、捨ておきください!」
「たいした傷じゃない。それより生まれ変わったら、などと哀しいことを言うな。藤音もわたしも、今、こうしてここにいるのに」
慈しみをこめて語りかける隼人に、藤音の眼が大きく見開かれる。瞳はただひたすら隼人だけを見つめている。
隼人はあきらめずに、慎重に藤音の手の指を一本ずつ懐剣から外していく。
心のゆらぎが中にいる鬼を動揺させたのか、藤音の手からは力が抜けている。
そう告げると藤音はまた儚げに微笑した。
覚悟を決めた者の静かな顔だった。
「短い間でしたが、殿とご一緒できて幸せでした。もしも生まれ変わりというものがあるのなら、今度、生まれた時はただの娘としてあなたさまの妻に……」
言い終わらないうちに藤音は息を呑んだ。刃を自分に向けていた藤音の手に、隼人の手が重ねられたのだ。
隼人は力をこめ、懐剣を藤音の手から奪おうとする。強い意志を宿した、まっすぐなまなざしで。
「死なせはしない。藤音、そなたはわたしの妻だ!」
が、鬼も邪魔だてさせまいと、藤音の手を操って懐剣を隼人に向けさせる。勢いをつけた刃の先が隼人の頬をかすめ、鮮血が滴り落ちる。
「つっ……」
「隼人さま!」
頬に手をやって顔をしかめる隼人に、藤音が悲鳴のように名を呼ぶ。
「もうよいのです。わたくしなど、捨ておきください!」
「たいした傷じゃない。それより生まれ変わったら、などと哀しいことを言うな。藤音もわたしも、今、こうしてここにいるのに」
慈しみをこめて語りかける隼人に、藤音の眼が大きく見開かれる。瞳はただひたすら隼人だけを見つめている。
隼人はあきらめずに、慎重に藤音の手の指を一本ずつ懐剣から外していく。
心のゆらぎが中にいる鬼を動揺させたのか、藤音の手からは力が抜けている。