第62話 言い伝え
文字数 520文字
桜花はつと立ち止まり、伊織を見つめた。そういえば、伊織は自分の家系と「力」のことをどこまで知っているのだろう。
「ねえ、伊織」
名を呼ばれ、伊織も桜花を見つめ返す。
「あなたは自分の家の伝承をどのくらい知ってる?」
「は?」
唐突な質問に、伊織が怪訝な顔をする。
「始祖が龍だったとかいう言い伝えか?」
「それもあるけど、他には?」
「他にと言われても……。天宮は代々巫女や神官を出してきた家柄で、桐生は代々武人として九条家に仕えてきたという話だろう」
「魔封じとか、破魔の者については?」
「いったい何だ、それは?」
桜花はがっくりと肩を落とした。やはり知らないらしい。
おそらく和臣は母から聞いて知っているだろう。
武門の名家の出である霧江は、実家にも婚家にも誇りを持っているから、息子に伝承も教えてあるに違いない。
まあもう数十年もの間、魔封じなど必要なかったし、桐生の総領である父は忙しいだろうし、伊織が知らなくても仕方ないのだが。
しかし、知らぬままでは自覚もできない。この先、いつ「力」が必要になるか、わからないのに。
「ねえ、伊織」
名を呼ばれ、伊織も桜花を見つめ返す。
「あなたは自分の家の伝承をどのくらい知ってる?」
「は?」
唐突な質問に、伊織が怪訝な顔をする。
「始祖が龍だったとかいう言い伝えか?」
「それもあるけど、他には?」
「他にと言われても……。天宮は代々巫女や神官を出してきた家柄で、桐生は代々武人として九条家に仕えてきたという話だろう」
「魔封じとか、破魔の者については?」
「いったい何だ、それは?」
桜花はがっくりと肩を落とした。やはり知らないらしい。
おそらく和臣は母から聞いて知っているだろう。
武門の名家の出である霧江は、実家にも婚家にも誇りを持っているから、息子に伝承も教えてあるに違いない。
まあもう数十年もの間、魔封じなど必要なかったし、桐生の総領である父は忙しいだろうし、伊織が知らなくても仕方ないのだが。
しかし、知らぬままでは自覚もできない。この先、いつ「力」が必要になるか、わからないのに。