第62話 言い伝え

文字数 520文字

 桜花はつと立ち止まり、伊織を見つめた。そういえば、伊織は自分の家系と「力」のことをどこまで知っているのだろう。
「ねえ、伊織」
 名を呼ばれ、伊織も桜花を見つめ返す。
「あなたは自分の家の伝承をどのくらい知ってる?」
「は?」
 唐突な質問に、伊織が怪訝な顔をする。
「始祖が龍だったとかいう言い伝えか?」
「それもあるけど、他には?」
「他にと言われても……。天宮は代々巫女や神官を出してきた家柄で、桐生は代々武人として九条家に仕えてきたという話だろう」
「魔封じとか、破魔の者については?」
「いったい何だ、それは?」
 桜花はがっくりと肩を落とした。やはり知らないらしい。
 おそらく和臣は母から聞いて知っているだろう。
 武門の名家の出である霧江は、実家にも婚家にも誇りを持っているから、息子に伝承も教えてあるに違いない。
 まあもう数十年もの間、魔封じなど必要なかったし、桐生の総領である父は忙しいだろうし、伊織が知らなくても仕方ないのだが。
 しかし、知らぬままでは自覚もできない。この先、いつ「力」が必要になるか、わからないのに。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み