第181話 告げる想い
文字数 554文字
共に過ごしてきた、幾つもの季節。記憶の欠片がつなぎあわされ、甦ってくる。
桜花の頬をつうっと涙が伝い落ちた。
「伊織──伊織!」
何度も名を繰り返しながら、ぎゅっと背中に腕を回す。
どうして忘れてなどいられたのだろう。こんなにも大切なひとのことを。
すべての記憶は呼び覚まされ、桜花は自分自身を取り戻す。そんな桜花を胸に抱 いたまま、伊織は今まで口に出せなかった想いを告げる。
「俺は桜花が好きだ。笑ったり、悩んだり、泣いたり……懸命に生きる、ひとりの娘としての桜花が」
あまりに突然の告白に、桜花はただ眼を見開くばかりだ。
「ずっとためらっていた。天宮の巫女である桜花を愛することは……妻にと望むことは、許されない罪ではないかと。そうやって俺が何も言いだせないでいるうちに、兄上が桜花に求婚してしまった」
心地よい腕の中で黙って耳をかたむける桜花に、伊織はさらに続けて、
「けれど今回の件ではっきりと自分の気持ちを思い知らされた。俺は桜花と一緒に生きていきたい。他の誰でもない、桜花と」
迷いのないまっすぐなまなざしを受け止め、桜花は伊織の頬にふれてみる。夢でないことを確かめるように。
桜花の頬をつうっと涙が伝い落ちた。
「伊織──伊織!」
何度も名を繰り返しながら、ぎゅっと背中に腕を回す。
どうして忘れてなどいられたのだろう。こんなにも大切なひとのことを。
すべての記憶は呼び覚まされ、桜花は自分自身を取り戻す。そんな桜花を胸に
「俺は桜花が好きだ。笑ったり、悩んだり、泣いたり……懸命に生きる、ひとりの娘としての桜花が」
あまりに突然の告白に、桜花はただ眼を見開くばかりだ。
「ずっとためらっていた。天宮の巫女である桜花を愛することは……妻にと望むことは、許されない罪ではないかと。そうやって俺が何も言いだせないでいるうちに、兄上が桜花に求婚してしまった」
心地よい腕の中で黙って耳をかたむける桜花に、伊織はさらに続けて、
「けれど今回の件ではっきりと自分の気持ちを思い知らされた。俺は桜花と一緒に生きていきたい。他の誰でもない、桜花と」
迷いのないまっすぐなまなざしを受け止め、桜花は伊織の頬にふれてみる。夢でないことを確かめるように。