第135話 異変

文字数 559文字

「確かに奥方さまは夜中に、封じの岩におひとりで行かれておいででした」
 遠慮がちに伊織も口をはさむ。
「もしもわたくしの考えが間違っておりましたら、お咎めはいかようにもお受けいたします。何とぞ、藤音さまに会わせてくださいませ!」
 桜花は固く心に決めていた。今度はもう一歩も引かない。これ以上、大切な人たちを誰も傷つけないために。
 だからこそ、どうしても藤音に会って、自分の眼で確かめなくてはならないのだ。
 とまどいつつも、わかりました、と隼人は答えた。
「桜花どのがそこまで言われるなら……。具合が良くないとのことで、わたしもここ数日は会っていないのですが、藤音の部屋まで行ってみましょう。また如月たちに阻まれるかもしれませんが」
 隼人は立ち上がり、続いて桜花と伊織も立ち上がった。三人は広間を出て、藤音の部屋をめざして歩いていく。
 しかし歩き出してほどなく、三人は奇妙な違和感を覚えていた。
 おかしい……妙に静かだ。
 廊下を歩いていても誰ひとりとして、すれ違わない。
 この館には何十人もの人間がいるはずなのに、しんと静まり返り、まるで人の動く気配がしない。
 そして異変は藤音の部屋まで来て決定的となった。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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