第52話 破魔の者
文字数 578文字
──破魔 の者──。
祖父の口からこぼれたそんな言霊 が、桜花の心を波立てる。
人となって降臨した天女と龍。その末裔が天宮家と桐生家。
伝承にはさらに続きがある。
ふたつの家系の中でも、ことに強い力を持った者が代々ひとりずつ。
その一対の者が「破魔の者」と呼ばれ、妖魔を封じる者として、九条家と草薙の国を護ってきたのだ。
「おじいさまはわたしが破魔の者、だと?」
「そなたは天宮本家のひとり娘。魔を封じる力を持った者であることは間違いないはず」
ですが、と桜花はためらいがちに言葉を返す。
「わたしに魔物を封じる力がある、などとは到底、思えないのですが……」
確かに天宮の家に生まれた以上、当然のように巫女として生きてきた。
しかしあくまで巫女としてである。
神事の所作や祈祷や舞いの奉納はできても、魔物などとは相対したこともない。
「そなたが当惑するのも、もっともじゃ。もう何十年もの間、この国は妖魔の災いなど降りかかることなく、過ごしてきたのだから」
隣国との争いはあったが、草薙の国の中では人々は穏やかに暮らしてきたのである。
妖魔さえ現れなければ封じる必要もない。
力を持つ者もごく普通に人として生きてきたのだ。
祖父の口からこぼれたそんな
人となって降臨した天女と龍。その末裔が天宮家と桐生家。
伝承にはさらに続きがある。
ふたつの家系の中でも、ことに強い力を持った者が代々ひとりずつ。
その一対の者が「破魔の者」と呼ばれ、妖魔を封じる者として、九条家と草薙の国を護ってきたのだ。
「おじいさまはわたしが破魔の者、だと?」
「そなたは天宮本家のひとり娘。魔を封じる力を持った者であることは間違いないはず」
ですが、と桜花はためらいがちに言葉を返す。
「わたしに魔物を封じる力がある、などとは到底、思えないのですが……」
確かに天宮の家に生まれた以上、当然のように巫女として生きてきた。
しかしあくまで巫女としてである。
神事の所作や祈祷や舞いの奉納はできても、魔物などとは相対したこともない。
「そなたが当惑するのも、もっともじゃ。もう何十年もの間、この国は妖魔の災いなど降りかかることなく、過ごしてきたのだから」
隣国との争いはあったが、草薙の国の中では人々は穏やかに暮らしてきたのである。
妖魔さえ現れなければ封じる必要もない。
力を持つ者もごく普通に人として生きてきたのだ。