第52話 破魔の者

文字数 578文字

 ──破魔(はま)の者──。
 祖父の口からこぼれたそんな言霊(ことだま)が、桜花の心を波立てる。
 人となって降臨した天女と龍。その末裔が天宮家と桐生家。
 伝承にはさらに続きがある。
 ふたつの家系の中でも、ことに強い力を持った者が代々ひとりずつ。
 その一対の者が「破魔の者」と呼ばれ、妖魔を封じる者として、九条家と草薙の国を護ってきたのだ。
「おじいさまはわたしが破魔の者、だと?」
「そなたは天宮本家のひとり娘。魔を封じる力を持った者であることは間違いないはず」
 ですが、と桜花はためらいがちに言葉を返す。
「わたしに魔物を封じる力がある、などとは到底、思えないのですが……」
 確かに天宮の家に生まれた以上、当然のように巫女として生きてきた。
 しかしあくまで巫女としてである。
 神事の所作や祈祷や舞いの奉納はできても、魔物などとは相対したこともない。
「そなたが当惑するのも、もっともじゃ。もう何十年もの間、この国は妖魔の災いなど降りかかることなく、過ごしてきたのだから」
 隣国との争いはあったが、草薙の国の中では人々は穏やかに暮らしてきたのである。
 妖魔さえ現れなければ封じる必要もない。
 力を持つ者もごく普通に人として生きてきたのだ。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み