第78話 母の手
文字数 604文字
瘴気の受け方には人によって差がある。桜花は近くまで来ただけでひどい影響を受けたのに、伊織はさほどではなかったように。
この子供は夢中で遊んでいて自分でも気づかないうちに、強い瘴気を浴びてしまったのだろう。
桜花は子供の枕もとにかがみこみ、額にそっと触れた。
かなりの高熱だ。小さな体には負担が大きすぎる。
とにかく熱を下げなくては……と考えていた時だった。
脳裏にふっと白い優しい手が浮かんだ。
それは──母の手。
同時に記憶が鮮明に甦ってくる。昔、自分のそばで、病に苦しむ者を癒していた母の姿が。
理屈より先に体が動いた。母がしていたように、桜花は子供の額に手を当てた。
額に手を当てたまま、意識を集中する。
熱をいったん自分の右手に移し、枕の近くに置かれた桶の水に、その手を入れる。
手のひらに移された熱は一瞬、水を泡立て、消滅する。
一連の様子を見届けると、桜花は子供に視線を移し、安堵の笑みを浮かべた。
顔の病的な赤みが消え、呼吸も先ほどより楽になっている。額に手をやって確かめると、熱は下がっている。
その間、伊織は無言で、ただ桜花のやることを見つめていた。
このような桜花を眼にするのは初めてだ。
病に苦しむ子供を癒す姿は、普段とはまるで違い、神々しくさえ感じられる。
この子供は夢中で遊んでいて自分でも気づかないうちに、強い瘴気を浴びてしまったのだろう。
桜花は子供の枕もとにかがみこみ、額にそっと触れた。
かなりの高熱だ。小さな体には負担が大きすぎる。
とにかく熱を下げなくては……と考えていた時だった。
脳裏にふっと白い優しい手が浮かんだ。
それは──母の手。
同時に記憶が鮮明に甦ってくる。昔、自分のそばで、病に苦しむ者を癒していた母の姿が。
理屈より先に体が動いた。母がしていたように、桜花は子供の額に手を当てた。
額に手を当てたまま、意識を集中する。
熱をいったん自分の右手に移し、枕の近くに置かれた桶の水に、その手を入れる。
手のひらに移された熱は一瞬、水を泡立て、消滅する。
一連の様子を見届けると、桜花は子供に視線を移し、安堵の笑みを浮かべた。
顔の病的な赤みが消え、呼吸も先ほどより楽になっている。額に手をやって確かめると、熱は下がっている。
その間、伊織は無言で、ただ桜花のやることを見つめていた。
このような桜花を眼にするのは初めてだ。
病に苦しむ子供を癒す姿は、普段とはまるで違い、神々しくさえ感じられる。