第180話 生を紡ぐ場所
文字数 450文字
行こうとする先には篝火の焚かれた巨大な岩の門。
伊織は直感した。あの向こうに足を踏み入れてしまったら、二度と戻ってこられない。
何としてでも止めなくては。
だが、どうすればいい?
どうしたら黄泉に誘われている桜花の魂を呼び戻せるのか。
焦燥にかられる伊織を導くかのように守護石が輝きを増す。
伊織は桜花を抱き寄せ、ほっそりした手に石を握らせると、強引に唇を押しあてた。
戻ってこい──。
唇が重なった瞬間、強い意志が桜花の精神 を鷲づかみにし、その熱さが胸をどくん、と波打たせる。
伊織は唇を離し、桜花の瞳を見つめて呼びかける。
「行くな! 思い出せ、伊織だ!」
無表情だった桜花の顔にわずかに宿る生気。
「……いおり……?」
「そうだ。迎えに来た。一緒に帰ろう」
「どこへ?」
「俺たちが生きている世界だ。争いも憎しみも悲しみもあって、よいことばかりではないが、それでも精一杯、生を紡いでいる場所だ」
自分を包みこむ暖かな腕。胸に当てた耳から聞こえる鼓動。
知っている。このぬくもりも、規則正しいこの音も。
伊織は直感した。あの向こうに足を踏み入れてしまったら、二度と戻ってこられない。
何としてでも止めなくては。
だが、どうすればいい?
どうしたら黄泉に誘われている桜花の魂を呼び戻せるのか。
焦燥にかられる伊織を導くかのように守護石が輝きを増す。
伊織は桜花を抱き寄せ、ほっそりした手に石を握らせると、強引に唇を押しあてた。
戻ってこい──。
唇が重なった瞬間、強い意志が桜花の
伊織は唇を離し、桜花の瞳を見つめて呼びかける。
「行くな! 思い出せ、伊織だ!」
無表情だった桜花の顔にわずかに宿る生気。
「……いおり……?」
「そうだ。迎えに来た。一緒に帰ろう」
「どこへ?」
「俺たちが生きている世界だ。争いも憎しみも悲しみもあって、よいことばかりではないが、それでも精一杯、生を紡いでいる場所だ」
自分を包みこむ暖かな腕。胸に当てた耳から聞こえる鼓動。
知っている。このぬくもりも、規則正しいこの音も。