第37話 優しさと強さ
文字数 525文字
「あの、藤音さまは何かおっしゃいましたでしょうか」
「いきさつは聞きました。わたしは弟御の仇であることも」
仇、という言葉がさらに桜花を驚かせる。
隼人は藤音がひとりで重い荷を背負っているようなものだと言ったけれど。隼人もまたあの日から誰にも打ちあけず、ひっそりと大きな秘密をかかえてきたのだ。
気づかないうちに頬をひとすじの涙が伝わり、桜花はあわてて指先で雫をぬぐった。
隼人は優しい。そしてとても強い。
「ではもうすべてご存知でいらっしゃるのですね」
淡々とした口調で問いかける如月に、隼人はこくりとうなずく。
「如月、あなたもわたしを恨んでいますか」
如月は静かに首を横に振った。
「全く恨んでいないと申せば嘘になりましょう。されどわたくしも乱世を生きてきた者。こうなった以上は己の運命を受け入れる所存でございます」
如月はごく普通の武家の妻だった。
が、戦で夫と息子を一度に失い、途方に暮れていたところに手を差しのべてくれたのが藤音の母だった。
あまり体の丈夫でなかった奥方は、自分の娘の乳母として如月を城に迎えてくれたのである。
「いきさつは聞きました。わたしは弟御の仇であることも」
仇、という言葉がさらに桜花を驚かせる。
隼人は藤音がひとりで重い荷を背負っているようなものだと言ったけれど。隼人もまたあの日から誰にも打ちあけず、ひっそりと大きな秘密をかかえてきたのだ。
気づかないうちに頬をひとすじの涙が伝わり、桜花はあわてて指先で雫をぬぐった。
隼人は優しい。そしてとても強い。
「ではもうすべてご存知でいらっしゃるのですね」
淡々とした口調で問いかける如月に、隼人はこくりとうなずく。
「如月、あなたもわたしを恨んでいますか」
如月は静かに首を横に振った。
「全く恨んでいないと申せば嘘になりましょう。されどわたくしも乱世を生きてきた者。こうなった以上は己の運命を受け入れる所存でございます」
如月はごく普通の武家の妻だった。
が、戦で夫と息子を一度に失い、途方に暮れていたところに手を差しのべてくれたのが藤音の母だった。
あまり体の丈夫でなかった奥方は、自分の娘の乳母として如月を城に迎えてくれたのである。