第17話 如月(きさらぎ)
文字数 635文字
如月は眼を見開いて、大きくかぶりを振った。
「嫌でございますわ、藤音さま。今さら他人行儀な。わたくしどもはどこまでも藤音さまとご一緒いたしますとも」
侍女たちはめいめいうなずき、如月は涙声になっている。
「ですから、まるで永遠の別れのようなことをおっしゃらないでくださいまし」
一瞬、心が波だったが、藤音は動揺を隠して言葉を続けた。
「わたくしは小さい頃からおてんばで、如月の望むようなしとやかな姫にはなれなかった。苦労をかけてごめんなさいね」
「とんでもございません! 藤音さまはこの如月がお育てした、自慢の姫さまですわ」
少しばかり口やかましいけれど。母が亡き後、乳母である如月ほど親身になって自分を案じてくれた者は他にいない。
その如月も四十半ば、ゆるやかにまとめた髪に白いものが目立つようになっている。
でも、おそらくは、もうじき如月の苦労も終わるだろうと思う。
「そろそろ寝所に行かなくては……」
藤音は鏡の前から立ち上がり、懐 に秘かにしのばせた短刀をぎゅっと握りしめた。着替えの途中で侍女たちの眼を盗んで隠し持ったものだ。九条家で用意した侍女たちを如月がすべて追い返してくれたのも幸いした。
懐かしい故郷を出て、この国に嫁ぐと決めた時から、藤音には秘めた目的があった。
それは、弟の仇を討つこと。
この手で九条隼人を殺すこと──。
「嫌でございますわ、藤音さま。今さら他人行儀な。わたくしどもはどこまでも藤音さまとご一緒いたしますとも」
侍女たちはめいめいうなずき、如月は涙声になっている。
「ですから、まるで永遠の別れのようなことをおっしゃらないでくださいまし」
一瞬、心が波だったが、藤音は動揺を隠して言葉を続けた。
「わたくしは小さい頃からおてんばで、如月の望むようなしとやかな姫にはなれなかった。苦労をかけてごめんなさいね」
「とんでもございません! 藤音さまはこの如月がお育てした、自慢の姫さまですわ」
少しばかり口やかましいけれど。母が亡き後、乳母である如月ほど親身になって自分を案じてくれた者は他にいない。
その如月も四十半ば、ゆるやかにまとめた髪に白いものが目立つようになっている。
でも、おそらくは、もうじき如月の苦労も終わるだろうと思う。
「そろそろ寝所に行かなくては……」
藤音は鏡の前から立ち上がり、
懐かしい故郷を出て、この国に嫁ぐと決めた時から、藤音には秘めた目的があった。
それは、弟の仇を討つこと。
この手で九条隼人を殺すこと──。