第92話 用件
文字数 552文字
回想から覚め、桜花は改めて自分の両手に視線を向けた。
確かに、いくばくかの「力」が自分にはあるのだ。それが魔物に対してどのくらい効力を発揮するのかはわからないが。
怪我は治っている。後は体力さえつけば、みゆは空へ放つことができるだろう。
自分の翼で大空を飛び回れるはずだ。
何ものにも縛られず、自由に──。
障子の向こうで足音がしたのは、そんな風に想いをはせている時だった。
「桜花、いるか?」
伊織の声に桜花の鼓動が跳ね上がる。
「いるわ。どうぞ」
できるだけ動揺を押し隠して返事をすると。
「邪魔するぞ」
障子が開けられ、伊織が部屋に入ってくる。桜花は胸に両手を当てて動悸をなだめようとするが、うまくいかない。
和臣の求婚の件はもちろん伊織も知っている。桜花と共にその場に居合わせたのだから。
伊織はどう思っているのだろう……?
昨日からずっと心にかかっていた疑問。
訊いてみたいのに、言の葉にできなくて唇は動かない。
だが、桜花の思惑とは関係なく、伊織は全く別の台詞を口にした。
「今、時間はあるか?」
「え、ええ」
伊織の真摯な表情に、私情の入る隙間のない用件だと気づく。
確かに、いくばくかの「力」が自分にはあるのだ。それが魔物に対してどのくらい効力を発揮するのかはわからないが。
怪我は治っている。後は体力さえつけば、みゆは空へ放つことができるだろう。
自分の翼で大空を飛び回れるはずだ。
何ものにも縛られず、自由に──。
障子の向こうで足音がしたのは、そんな風に想いをはせている時だった。
「桜花、いるか?」
伊織の声に桜花の鼓動が跳ね上がる。
「いるわ。どうぞ」
できるだけ動揺を押し隠して返事をすると。
「邪魔するぞ」
障子が開けられ、伊織が部屋に入ってくる。桜花は胸に両手を当てて動悸をなだめようとするが、うまくいかない。
和臣の求婚の件はもちろん伊織も知っている。桜花と共にその場に居合わせたのだから。
伊織はどう思っているのだろう……?
昨日からずっと心にかかっていた疑問。
訊いてみたいのに、言の葉にできなくて唇は動かない。
だが、桜花の思惑とは関係なく、伊織は全く別の台詞を口にした。
「今、時間はあるか?」
「え、ええ」
伊織の真摯な表情に、私情の入る隙間のない用件だと気づく。