第177話 守り抜く覚悟

文字数 488文字

 天女は伊織の肩に手を置き、諭すように、
「そなたたちが力を尽くしても、目覚めなかったのも無理からぬこと。この娘の魂は今、現世と黄泉の境界にあるのです」
「黄泉の境界……」
 伊織は茫然と天女の言の葉をなぞらえた。
 桜花はそのような遠い所にいるというのか。
「境界とはどこにあるのですか。どうすればそこに行けるのですか」
「行くつもりですか」
「──はい」
 強くうなずく伊織に、天女は形のいい眉をわずかにひそめ、
「確かにこの娘を助けるためには、境界まで行って魂を連れ戻さねばなりません。
 ですが、生身の人間が行くにはあまりに危険な場所。そなた自身の命さえ危ういのですよ」
「ご懸念には及びません。桜花を救えるなら、この命など惜しくはありませぬゆえ」
 天女の言う境界がいかなる所であろうと、桜花を守り抜く覚悟はできている。
 伊織の意志が固いことを悟ると、天女は桜花の枕元に置かれた守護石を指さした。
「では、その守護石を持ってゆきなさい。そなたたちを導いてくれるはずです」




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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