第107話 心まで
文字数 566文字
どのくらいの時が流れたか、藤音がふっと眼を開けた。
「お気がつかれましたか、藤音さま」
ほっとして微笑する桜花の横で、ゆっくりとあたりに視線を巡らせ、問いかける。
「ここは?」
「ご安心ください。天宮の、わたくしの祖父の屋敷でございます」
なぜ自分がこの場にいるのか、確かめようともせず、藤音はふうっと大きく息をつく。
「お館には内密で使いを出しましたゆえ、じきにお迎えもまいりましょう」
「そう……」
藤音は自分の手を包む桜花の手に眼を止め、桜花はあわてて両手を引っこめた。
「わたくしの手をずっと握っていてくれたのは、そなた?」
「はい。不躾 かとは思いましたが、お苦しそうでしたので……」
「とても暖かくて心地良かった。身体だけでなく、心まで楽になる気がしたわ。ありがとう」
思いがけず礼を言われ、桜花は眼をまるくした。むしろ咎 められるかもしれないと覚悟していたのに。
「あの、藤音さま」
「なあに?」
桜花は考え考えしながら、慎重に言葉を紡いでいく。
「どうか差し出た口をきくのをお許しください。殿は……隼人さまは、藤音さまをとても大切に思っていらっしゃいます。決して人質などとは考えておられません」
「お気がつかれましたか、藤音さま」
ほっとして微笑する桜花の横で、ゆっくりとあたりに視線を巡らせ、問いかける。
「ここは?」
「ご安心ください。天宮の、わたくしの祖父の屋敷でございます」
なぜ自分がこの場にいるのか、確かめようともせず、藤音はふうっと大きく息をつく。
「お館には内密で使いを出しましたゆえ、じきにお迎えもまいりましょう」
「そう……」
藤音は自分の手を包む桜花の手に眼を止め、桜花はあわてて両手を引っこめた。
「わたくしの手をずっと握っていてくれたのは、そなた?」
「はい。
「とても暖かくて心地良かった。身体だけでなく、心まで楽になる気がしたわ。ありがとう」
思いがけず礼を言われ、桜花は眼をまるくした。むしろ
「あの、藤音さま」
「なあに?」
桜花は考え考えしながら、慎重に言葉を紡いでいく。
「どうか差し出た口をきくのをお許しください。殿は……隼人さまは、藤音さまをとても大切に思っていらっしゃいます。決して人質などとは考えておられません」