第13話 婚礼

文字数 456文字

 伊織が頭を下げる脇で、隼人があわててとりなす。
「どうか二人を叱らないでやってください。わたしの愚痴(ぐち)につきあってくれていたのですから」
 愚痴、という言葉に引っかかりを覚えないわけではなかったが、和臣はあえて黙殺することにした。何しろ時間が迫っているのだ。
「さあ、とにかくお仕度を。これ以上遅くなりますと、ご家老さまが卒倒なさいますぞ」
 三人を追い立てるようにして小さな建物から庭へと連れ出す。
「お気持ちはわからなくはございませんが、今さら取り消すことはできませぬ」
 四人の中で最も年長である和臣は、急ぎ本丸に向かいながら冷徹(れいてつ)に言い放った。
「もはやこうなった以上、覚悟をお決めくださいませ」

 花嫁が城内に到着したのはもう夕刻、陽光があたりを金色に染め始めた頃だった。
 仕度、などと大騒ぎしていたが、婚礼の儀はあっさりしたものだった。盃事の後にささやかな宴が催されたくらいである。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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