第58話 心づくし
文字数 527文字
そこで如月が軽く咳払いする。
「ところで殿、そちらのお花は?」
隼人は思い出したように縁側に置いた鉢植えに眼をやった。
「朝顔の鉢植えです。部屋の外に置いておけば、毎日きれいな花を咲かせてくれると思って」
「わたくしに?」
もちろん、と快活にうなずく隼人に、藤音は朝顔を眺め、ついで持ってきた本人にまなざしを移して微笑みかけた。
「ありがとうございます。大切にいたします」
はにかんだ微笑に、隼人は胸が高鳴るのを感じた。
初めて藤音の笑顔を見た気がする。哀しげにうつむく姿より、笑っている方がずっと綺麗だ。
「もう少ししてあなたのお体がよくなったら、一緒に海辺を散策しましょう。潮風を浴びて、波打ち際を歩くのは気持ちよいものですよ」
藤音は小さな声で、はい、とうなずいた。
そもそもこの遠海行きは、体調のすぐれない自分のために隼人が取り計らってくれたものだ。
八重桜、躑躅 、紫陽花、今までも折々に季節の花を贈ってくれた。そして今日はみずから朝顔を届けてくれた。
決して押しつけがましくない、さまざまな心づくしが藤音の胸に染みていく。
「ところで殿、そちらのお花は?」
隼人は思い出したように縁側に置いた鉢植えに眼をやった。
「朝顔の鉢植えです。部屋の外に置いておけば、毎日きれいな花を咲かせてくれると思って」
「わたくしに?」
もちろん、と快活にうなずく隼人に、藤音は朝顔を眺め、ついで持ってきた本人にまなざしを移して微笑みかけた。
「ありがとうございます。大切にいたします」
はにかんだ微笑に、隼人は胸が高鳴るのを感じた。
初めて藤音の笑顔を見た気がする。哀しげにうつむく姿より、笑っている方がずっと綺麗だ。
「もう少ししてあなたのお体がよくなったら、一緒に海辺を散策しましょう。潮風を浴びて、波打ち際を歩くのは気持ちよいものですよ」
藤音は小さな声で、はい、とうなずいた。
そもそもこの遠海行きは、体調のすぐれない自分のために隼人が取り計らってくれたものだ。
八重桜、
決して押しつけがましくない、さまざまな心づくしが藤音の胸に染みていく。