第96話 鉄壁の防御

文字数 582文字

「殿といえども、強引な真似は許されませぬ。今日のところは、どうぞお引き取りくださいませ」
 ぴしゃりと宣告され、結局、三人はとりつく島もなく追い返される羽目になる。
 もっとも桜花は直接会えずとも、手がかりはつかめたのだが、今は黙ったまま心の内に秘めておく。
「いやはや、鉄壁の防御でございますな」
 天を仰いで伊織が感心した声を出し、隼人も応じる。
「如月が男だったら、さぞ気骨ある武将になっていたでしょうね」
「さようですな」
 二人は苦笑したが、すぐに顔から笑いは消えた。
「いずれにせよ、あらぬ噂は放ってはおけませぬ。事実を確かめなくては。今夜、自分がそれとなく藤音さまのご様子をうかがいましょう」
「わたくしも伊織どのを手伝います」
 申し出る桜花の瞳に、強い意志が宿っているのを隼人は見て取った。
 巫女である桜花は何かしら感じるところがあったのだろう。
 隼人は伊織と桜花をじっと見つめてから、頼みます、と頭を下げた。

 内密に隼人が用意してくれた部屋はちょうど藤音の居室のむかい、出入りがよく見える位置にあった。
 早めに夕餉をすませ、桜花は祖父に今日は所用で遅くなると使いを出す。
 これで準備は整い、後は藤音の様子を、言葉は悪いが──見張るだけだ。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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