第45話 霧江

文字数 552文字

「帰ってくる早々、いきなり何です?」
「わたしの縁談の話です。勤務中だというのに使いの者まで寄こして……。明日からはわたしも殿と共に遠海にまいります。これ以上、面倒はかけないでください」
「面倒って、そなたの縁談ですよ。大切なことではありませんか」
「はっきり申し上げて、わたしは母上の持ってくる縁談などには興味がありません。自分の妻くらい自分で選びます」
 さっと霧江の顔色が変わった。正面に立ち、息子の腕をつかんで訊いてくる。
「そなた、好いた相手がいるの? でも家格の釣り合いが取れなければ駄目よ。町娘だの、どこかの侍女だの、絶対に許しませんよ!」
 和臣は少しの間、押し黙った。
 母の気持ちはわかる。父に愛されなかった分まで、想いが自分に向いているのだ。
 だからあまり強くも言えず、今まで曖昧なまま、やり過ごしてしまった。
 霧江も言い過ぎたと思ったのだろう、いくぶん語調を和らげる。
「好いた相手がこの桐生の家にふさわしければ、母とてむやみに反対はしません。で、それは誰なの?」
 和臣は言葉につまった。縁談はきっぱりと断るつもりであったが、自分の想う相手まで母に打ち明ける気は全くなかったのだ。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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