第45話 霧江
文字数 552文字
「帰ってくる早々、いきなり何です?」
「わたしの縁談の話です。勤務中だというのに使いの者まで寄こして……。明日からはわたしも殿と共に遠海にまいります。これ以上、面倒はかけないでください」
「面倒って、そなたの縁談ですよ。大切なことではありませんか」
「はっきり申し上げて、わたしは母上の持ってくる縁談などには興味がありません。自分の妻くらい自分で選びます」
さっと霧江の顔色が変わった。正面に立ち、息子の腕をつかんで訊いてくる。
「そなた、好いた相手がいるの? でも家格の釣り合いが取れなければ駄目よ。町娘だの、どこかの侍女だの、絶対に許しませんよ!」
和臣は少しの間、押し黙った。
母の気持ちはわかる。父に愛されなかった分まで、想いが自分に向いているのだ。
だからあまり強くも言えず、今まで曖昧なまま、やり過ごしてしまった。
霧江も言い過ぎたと思ったのだろう、いくぶん語調を和らげる。
「好いた相手がこの桐生の家にふさわしければ、母とてむやみに反対はしません。で、それは誰なの?」
和臣は言葉につまった。縁談はきっぱりと断るつもりであったが、自分の想う相手まで母に打ち明ける気は全くなかったのだ。
「わたしの縁談の話です。勤務中だというのに使いの者まで寄こして……。明日からはわたしも殿と共に遠海にまいります。これ以上、面倒はかけないでください」
「面倒って、そなたの縁談ですよ。大切なことではありませんか」
「はっきり申し上げて、わたしは母上の持ってくる縁談などには興味がありません。自分の妻くらい自分で選びます」
さっと霧江の顔色が変わった。正面に立ち、息子の腕をつかんで訊いてくる。
「そなた、好いた相手がいるの? でも家格の釣り合いが取れなければ駄目よ。町娘だの、どこかの侍女だの、絶対に許しませんよ!」
和臣は少しの間、押し黙った。
母の気持ちはわかる。父に愛されなかった分まで、想いが自分に向いているのだ。
だからあまり強くも言えず、今まで曖昧なまま、やり過ごしてしまった。
霧江も言い過ぎたと思ったのだろう、いくぶん語調を和らげる。
「好いた相手がこの桐生の家にふさわしければ、母とてむやみに反対はしません。で、それは誰なの?」
和臣は言葉につまった。縁談はきっぱりと断るつもりであったが、自分の想う相手まで母に打ち明ける気は全くなかったのだ。