第81話 訪問客
文字数 498文字
のぞきこんだ伊織は、小鳥の羽の付け根に血がにじんでいるのに気づく。
「羽を痛めているようだな」
「ええ。これでは飛べないわ」
「さっきのように治せないのか?」
「わからないわ」
桜花は首をかしげた。正直な心情だ。瘴気を浴びた子供と、怪我をした小鳥ではまるで違う。
「この子は怪我のせいでもうずっと餌を食べてなくて弱っているの。ひとまず屋敷に連れていって養生させないと。元気になったら空に放すわ」
大切に手の中につつんだ小鳥に慈しむようなまなざしを向ける桜花に、伊織は微笑する。
「優しいな、桜花は」
不意にそんな風に言われ、桜花は頬を染め、どぎまぎしてしまう。
「別に、大げさなことじゃないわ。たまたま気づいて放っておけなかっただけで……」
黄昏があたりを金色に染めていた。
ひととき、二人はその場にたたずんだまま、瞳を見かわす。
やがて二人はどちらからともなく歩き出した。天宮の屋敷はもう眼の前だ。
と、ちょうど門から出てきた姿に桜花は眼を見はった。
「和臣さま?」
思いがけない訪問客だった。祖父はとっくに隠居の身だ。いったいどんな用事があったのだろう。
和臣も桜花たちに気づき、片手を上げて笑いかける。
「羽を痛めているようだな」
「ええ。これでは飛べないわ」
「さっきのように治せないのか?」
「わからないわ」
桜花は首をかしげた。正直な心情だ。瘴気を浴びた子供と、怪我をした小鳥ではまるで違う。
「この子は怪我のせいでもうずっと餌を食べてなくて弱っているの。ひとまず屋敷に連れていって養生させないと。元気になったら空に放すわ」
大切に手の中につつんだ小鳥に慈しむようなまなざしを向ける桜花に、伊織は微笑する。
「優しいな、桜花は」
不意にそんな風に言われ、桜花は頬を染め、どぎまぎしてしまう。
「別に、大げさなことじゃないわ。たまたま気づいて放っておけなかっただけで……」
黄昏があたりを金色に染めていた。
ひととき、二人はその場にたたずんだまま、瞳を見かわす。
やがて二人はどちらからともなく歩き出した。天宮の屋敷はもう眼の前だ。
と、ちょうど門から出てきた姿に桜花は眼を見はった。
「和臣さま?」
思いがけない訪問客だった。祖父はとっくに隠居の身だ。いったいどんな用事があったのだろう。
和臣も桜花たちに気づき、片手を上げて笑いかける。