第81話 訪問客

文字数 498文字

 のぞきこんだ伊織は、小鳥の羽の付け根に血がにじんでいるのに気づく。
「羽を痛めているようだな」
「ええ。これでは飛べないわ」
「さっきのように治せないのか?」
「わからないわ」
 桜花は首をかしげた。正直な心情だ。瘴気を浴びた子供と、怪我をした小鳥ではまるで違う。
「この子は怪我のせいでもうずっと餌を食べてなくて弱っているの。ひとまず屋敷に連れていって養生させないと。元気になったら空に放すわ」
 大切に手の中につつんだ小鳥に慈しむようなまなざしを向ける桜花に、伊織は微笑する。
「優しいな、桜花は」
 不意にそんな風に言われ、桜花は頬を染め、どぎまぎしてしまう。
「別に、大げさなことじゃないわ。たまたま気づいて放っておけなかっただけで……」
 黄昏があたりを金色に染めていた。
 ひととき、二人はその場にたたずんだまま、瞳を見かわす。 
 やがて二人はどちらからともなく歩き出した。天宮の屋敷はもう眼の前だ。
 と、ちょうど門から出てきた姿に桜花は眼を見はった。
「和臣さま?」
 思いがけない訪問客だった。祖父はとっくに隠居の身だ。いったいどんな用事があったのだろう。
 和臣も桜花たちに気づき、片手を上げて笑いかける。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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