第168話 とびきりの笑顔

文字数 445文字

 はにかみながら、こくりとうなずく。
「わたくしも、隼人さまに添うて眠りとうございます」
「本当に !?
 隼人はがばっと身を乗り出し、藤音の両手を握る。
 勢いこむ隼人に藤音はいささか引き気味に、
「本当ですわ。恥ずかしいですから、何度も言わせないでくださいませ」
「よかった!」
 声を弾ませ、とびきりの笑顔で藤音を抱きしめる。
「あ、あのっ、殿……」
 藤音は人目が、と咎めようとしたが、隼人の腕の中があまりに心地よくて、そのままゆだねてしまう。身も、心も。
 幸福そうに身を寄せあう(あるじ)夫妻の邪魔をしないよう、伊織と桜花は足音を忍ばせ、ひそかに部屋を出ていった。
 自分たちの役目は終わっている。これ以上の長居は不粋というものだ。
 二人に続いて如月と侍女たちもそそくさと退出し、陽光のまぶしい庭へと降りていく。
「如月どのはおそばに控えてなくてよろしいのですか?」
 耳打ちする伊織に、如月はまさか、と首を振った。
「わたくしとて野暮はしたくありませんよ。この如月の一番の望みは、藤音さまのお幸せなのですから」




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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