第2話 春の午後、舞う少女

エピソード文字数 603文字

 穏やかな春の昼下がり。伊織(いおり)は彼の(あるじ)を探して城の庭を歩き回っていた。
「殿! どちらにおいでです !?
 呼びかけても返事はない。ただ小鳥のさえずりが聞こえるばかりだ。
 草薙(くさなぎ)の地を治める九条家。そこに仕える桐生(きりゅう)伊織は十八歳。髪を上で束ね、武人らしく腰には刀を差している。
 と、木立の中に何か動く姿があって、伊織はそちらへ視線を向けた。
 白い上着に紅袴、ひとつにまとめた長い髪。木洩れ日の中、巫女の衣装をまとった華奢な少女がひとり、熱心に舞っている。
 それは彼の探し人ではなかったが、真剣な顔つきでひらりと身をひるがえす姿が愛らしく、思わず唇がほころぶ。
 やがて人の気配に気づいたのか、少女は動きを止め、伊織の方を振り向いた。
「こんなところでどうしたの?」
 親しみをこめて笑いかけてくる少女に伊織も鷹揚な笑顔で応じる。伊織とは幼馴染の少女はつい先日、彼と同じ数えで十八になったばかりだ。
桜花(おうか)こそ、このような人目のないところで舞いの稽古か?」
 胸に手を当てて大きな瞳の少女はうなずいた。
「ええ。今日は隼人(はやと)さまの婚礼の日ですもの。こっそりおさらいしていたの。わたしは巫女として舞いを奉納するのだから、とちったりしたら大変でしょう?」



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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


桜花の幼馴染。始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

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