第20話 憎しみ
文字数 596文字
「わたくしは領主を殺めようとした重罪人。さっさと殺してしまいなされ!」
叫ぶ藤音の口を隼人がふさいだ。そして小声で、
「しっ、大きな声を出さないで。周囲の者に聞きつけられます」
藤音はその手を力をこめて払いのけ、
「聞かれてもかまいませぬ。どうせわたくしは死罪になる身。何を恐れることがありましょう。こうなった以上は、いっそあなたさまの手で──」
とっくに覚悟はできていた。自分の行為の重大さは承知している。この場で斬り殺されようと文句は言えない。
しかし隼人はゆっくりと首を横に振った。
「それは……できません」
互いの息づかいが感じられるほど間近で、藤音は鋭い問いを投げかける。
「なぜでございますか!? 同情ならば無用です!」
刃を向けられたというのに、なぜ怒らないのか。罵らないのか。どうしてそのような哀し気な表情をするのか。
同情ではありません、と務めて冷静に隼人は答えた。
「おわかりになりませんか? あなたとわたし、どちらが死んでもこの和睦は破綻 します。あなたはせっかく整った盟約を破り、白河と草薙をまた戦場にするおつもりですか」
藤音は言葉を失った。事の重大さは理解していたつもりだったのに、自分の憎しみに目がくらんで、そんなことは考えも及ばなかった。
叫ぶ藤音の口を隼人がふさいだ。そして小声で、
「しっ、大きな声を出さないで。周囲の者に聞きつけられます」
藤音はその手を力をこめて払いのけ、
「聞かれてもかまいませぬ。どうせわたくしは死罪になる身。何を恐れることがありましょう。こうなった以上は、いっそあなたさまの手で──」
とっくに覚悟はできていた。自分の行為の重大さは承知している。この場で斬り殺されようと文句は言えない。
しかし隼人はゆっくりと首を横に振った。
「それは……できません」
互いの息づかいが感じられるほど間近で、藤音は鋭い問いを投げかける。
「なぜでございますか!? 同情ならば無用です!」
刃を向けられたというのに、なぜ怒らないのか。罵らないのか。どうしてそのような哀し気な表情をするのか。
同情ではありません、と務めて冷静に隼人は答えた。
「おわかりになりませんか? あなたとわたし、どちらが死んでもこの和睦は
藤音は言葉を失った。事の重大さは理解していたつもりだったのに、自分の憎しみに目がくらんで、そんなことは考えも及ばなかった。