第72話 伝承
文字数 569文字
軽く笑む祖父に伊織は思いきって呼びかける。
「あの、祖父どの」
「何かな?」
「桜花から二つの家にまつわる伝承について聞きました。もしよろしければ、今度、祖父どのがご都合が良い時に、詳しくうかがいたいのですが」
と、祖父の眼がきらりと輝いた。
「ほう、このじいから聞きたいとな。今からでもかまわんぞ。薬湯ができるまでの間、話してしんぜよう」
「えっ?」
今すぐとはまるで考えていなかったので、伊織は眼をしばたたかせた。
一方、祖父はといえば。かまどの前に二人分の椅子を出してきて、すでに語る気満々である。
「まあとにかく座りなされ。で、まずは何を聞きたいと?」
伊織はすすめられるままに椅子に腰かけ、単刀直入に切り出した。
「桜花が口にしていました。破魔の者とは何なのですか」
「破魔の者とは天宮と桐生の、魔を封じる一対の者の呼び名じゃよ」
「その一対の者とは?」
「自然を愛し、邪気を感じ取り、人々を癒す存在──天女の末裔。一方、天女を守護し、魔物と直接戦って倒す者──龍の末裔。この二つが合わさってこそ、大きな力が発動されると言われておる」
薬草を煎じる鍋がことこと小さな音をたてている。かまどの火が祖父と伊織の姿を赤く照らす。
「あの、祖父どの」
「何かな?」
「桜花から二つの家にまつわる伝承について聞きました。もしよろしければ、今度、祖父どのがご都合が良い時に、詳しくうかがいたいのですが」
と、祖父の眼がきらりと輝いた。
「ほう、このじいから聞きたいとな。今からでもかまわんぞ。薬湯ができるまでの間、話してしんぜよう」
「えっ?」
今すぐとはまるで考えていなかったので、伊織は眼をしばたたかせた。
一方、祖父はといえば。かまどの前に二人分の椅子を出してきて、すでに語る気満々である。
「まあとにかく座りなされ。で、まずは何を聞きたいと?」
伊織はすすめられるままに椅子に腰かけ、単刀直入に切り出した。
「桜花が口にしていました。破魔の者とは何なのですか」
「破魔の者とは天宮と桐生の、魔を封じる一対の者の呼び名じゃよ」
「その一対の者とは?」
「自然を愛し、邪気を感じ取り、人々を癒す存在──天女の末裔。一方、天女を守護し、魔物と直接戦って倒す者──龍の末裔。この二つが合わさってこそ、大きな力が発動されると言われておる」
薬草を煎じる鍋がことこと小さな音をたてている。かまどの火が祖父と伊織の姿を赤く照らす。