第152話 唯姫
文字数 533文字
娘は言葉を続けて、
──わたくしの名は唯 あなたは?
浅葱、と答えると、唯姫はその瞳をのぞきこみ、
──あなたはきれいな淡い青い瞳をしているわ。ぴったりの名前ね。
今も耳に残る、たおやかな銀鈴のような声。
姫の喜ぶ顔が見たくて食糧や薬草を届け、やがて浅葱は父親とも言葉をかわすようになっていた。
父親もまた娘と同じように自分を怖れも拒絶もしなかった。
「唯姫の父は弟に領主の座を奪われ、逃れてきた者だった。弟は圧政を敷き、領民を苦しめている。どうにかして領主の座を取り戻し、民を救いたいと男は言った」
──浅葱どの、どうか力をお貸しくだされ。
顔を合わせる度、傷を負った身で熱っぽく訴えてきたものだ。
「正直、人間たちの争いに興味はなかった。ただ唯姫がいた。いつしか我らは愛しあうようになっていた」
移ろう時の中、ひとりきりで生きていた浅葱が初めて知った愛。
月光が差しこむ古い静かな屋敷で、姫と寄り添いながら浅葱は告げた。
──領主に復帰するために力を借りたいという、そなたの父の申し出を受けようと思う。
腕の中で唯姫が見上げてくる。
──わたくしの名は
浅葱、と答えると、唯姫はその瞳をのぞきこみ、
──あなたはきれいな淡い青い瞳をしているわ。ぴったりの名前ね。
今も耳に残る、たおやかな銀鈴のような声。
姫の喜ぶ顔が見たくて食糧や薬草を届け、やがて浅葱は父親とも言葉をかわすようになっていた。
父親もまた娘と同じように自分を怖れも拒絶もしなかった。
「唯姫の父は弟に領主の座を奪われ、逃れてきた者だった。弟は圧政を敷き、領民を苦しめている。どうにかして領主の座を取り戻し、民を救いたいと男は言った」
──浅葱どの、どうか力をお貸しくだされ。
顔を合わせる度、傷を負った身で熱っぽく訴えてきたものだ。
「正直、人間たちの争いに興味はなかった。ただ唯姫がいた。いつしか我らは愛しあうようになっていた」
移ろう時の中、ひとりきりで生きていた浅葱が初めて知った愛。
月光が差しこむ古い静かな屋敷で、姫と寄り添いながら浅葱は告げた。
──領主に復帰するために力を借りたいという、そなたの父の申し出を受けようと思う。
腕の中で唯姫が見上げてくる。