第169話 暗転
文字数 449文字
経緯はよくわからないが、まあ今回は、あの奥手な殿にしては上出来だろう。
如月は額に手をかざし、鮮やかな群青の海に視線を投げた。
「やれやれ、後であの部屋を片づけるのは大変ですわねえ」
ぼやきつつも顔には満足げな微笑が浮かんでいる。
庭の端まで来て、桜花と伊織は並んで立ち止まった。生垣の向こうはすぐ砂浜だ。
そっとつないだ手のぬくもりが、自分たちは生きているのだと実感させてくれる。
今度、伊織と一緒に花を摘みに行こう。
そして花束にして海へ流そう。
浅葱と唯姫。現世では哀しい結末に終わった恋人たちへの、せめてもの手向けに。
手を結んだまま、二人は彼方の水平線を見つめ続ける。
これで終焉だと誰もが思った。恐ろしくも哀切な鬼の物語はすべて。
しかし異変は突然、桜花を襲った。
眼の前が暗転して力が抜けていく。まるで地の底に吸いこまれていくような感覚。
身体がゆらぎ、結んでいた指先がふわっとほどけていく。
「桜花── !?」
自分の名を呼ぶ声がひどく遠くで聞こえ、桜花は伊織の胸に倒れこんでいった。
如月は額に手をかざし、鮮やかな群青の海に視線を投げた。
「やれやれ、後であの部屋を片づけるのは大変ですわねえ」
ぼやきつつも顔には満足げな微笑が浮かんでいる。
庭の端まで来て、桜花と伊織は並んで立ち止まった。生垣の向こうはすぐ砂浜だ。
そっとつないだ手のぬくもりが、自分たちは生きているのだと実感させてくれる。
今度、伊織と一緒に花を摘みに行こう。
そして花束にして海へ流そう。
浅葱と唯姫。現世では哀しい結末に終わった恋人たちへの、せめてもの手向けに。
手を結んだまま、二人は彼方の水平線を見つめ続ける。
これで終焉だと誰もが思った。恐ろしくも哀切な鬼の物語はすべて。
しかし異変は突然、桜花を襲った。
眼の前が暗転して力が抜けていく。まるで地の底に吸いこまれていくような感覚。
身体がゆらぎ、結んでいた指先がふわっとほどけていく。
「桜花── !?」
自分の名を呼ぶ声がひどく遠くで聞こえ、桜花は伊織の胸に倒れこんでいった。