第145話 冥土の土産
文字数 561文字
母? と訊き返す桜花に、
「鬼に母がいてはおかしいか? 我は確かに異形の者。されど半分は人の血も流れている」
漠然と、鬼とは自分たちとはまったく異なる存在だと考えていた桜花には、浅葱の言葉はひどく意外に聞こえた。
正面から向かいあい、桜花は最も不思議に思っていた疑問を投げかける。
「なぜ、あなたは九条家を恨んでいるの?」
この鬼、浅葱と九条家が、いったいどんな関わりがあるというのか。
浅葱は遠いものを追うような眼をして答えた。
「憎いのだ……母と我を捨てた九条家が。さらには我を利用し、裏切り、愛する者を奪った九条の人間が」
そう口にしたとたん、瞳が妖しく輝き、憎悪をまとった「気」が周囲の空気を揺らす。
それほどまでに浅葱の怨念は凄まじいのだ。
「何が、あったの?」
さらに問う桜花に、浅葱は不可解そうに視線を当てる。
「物好きな巫女だな。鬼の昔語りなど聞きたいか?」
「聞かせて」
「桜花?」
伊織も解せない顔つきをしたが、桜花は真実を知りたかった。浅葱の心の奥底には憎悪で覆い隠された哀しみが秘められているのを感じたからだ。
よかろう、と浅葱はうなずいた。
「話してやろう。冥土の土産というやつだ」
「鬼に母がいてはおかしいか? 我は確かに異形の者。されど半分は人の血も流れている」
漠然と、鬼とは自分たちとはまったく異なる存在だと考えていた桜花には、浅葱の言葉はひどく意外に聞こえた。
正面から向かいあい、桜花は最も不思議に思っていた疑問を投げかける。
「なぜ、あなたは九条家を恨んでいるの?」
この鬼、浅葱と九条家が、いったいどんな関わりがあるというのか。
浅葱は遠いものを追うような眼をして答えた。
「憎いのだ……母と我を捨てた九条家が。さらには我を利用し、裏切り、愛する者を奪った九条の人間が」
そう口にしたとたん、瞳が妖しく輝き、憎悪をまとった「気」が周囲の空気を揺らす。
それほどまでに浅葱の怨念は凄まじいのだ。
「何が、あったの?」
さらに問う桜花に、浅葱は不可解そうに視線を当てる。
「物好きな巫女だな。鬼の昔語りなど聞きたいか?」
「聞かせて」
「桜花?」
伊織も解せない顔つきをしたが、桜花は真実を知りたかった。浅葱の心の奥底には憎悪で覆い隠された哀しみが秘められているのを感じたからだ。
よかろう、と浅葱はうなずいた。
「話してやろう。冥土の土産というやつだ」