第40話 仕度
文字数 548文字
「桜花どの」
開け放った障子の向こう側から、和臣が声をかけてくる。いつものようにきちんと髪を結び、仕立てのよい羽織と袴を身につけている。
「和臣さま。散らかっておりますが、どうぞお入りくださいませ」
「失礼しますよ。お仕度は進んでおりますか。何かお手伝いすることはありませんか」
着替えの装束を手に、桜花は感謝をこめて笑いかけた。
「お気づかい、ありがとうございます。でも、たいした物は持ちあわせておりませんし、わたしの仕度など簡単ですの」
衣装を広げた合間をぬって、和臣は桜花の向かいに座る。
「今回の遠海行きは桜花どのの進言とうかがいました。みな喜んでおりますよ。特にお年を召した重臣の方々は」
「朝夕はとても涼しいところですし、藤音さまのお加減もよくなられるとよいのですが……」
藤音の身を案じながら桜花は言った。そのための遠海行きなのだ。
「そういえば、遠海には確か天宮のお屋敷があったはずですが」
「ずいぶん前に隠居した祖父が住んでおります」
「では、久しぶりに祖父どのにお会いできますね」
桜花は明るくうなずいた。城下から遠海に移り住んだ祖父に会うのは、何年ぶりになるだろうか。
開け放った障子の向こう側から、和臣が声をかけてくる。いつものようにきちんと髪を結び、仕立てのよい羽織と袴を身につけている。
「和臣さま。散らかっておりますが、どうぞお入りくださいませ」
「失礼しますよ。お仕度は進んでおりますか。何かお手伝いすることはありませんか」
着替えの装束を手に、桜花は感謝をこめて笑いかけた。
「お気づかい、ありがとうございます。でも、たいした物は持ちあわせておりませんし、わたしの仕度など簡単ですの」
衣装を広げた合間をぬって、和臣は桜花の向かいに座る。
「今回の遠海行きは桜花どのの進言とうかがいました。みな喜んでおりますよ。特にお年を召した重臣の方々は」
「朝夕はとても涼しいところですし、藤音さまのお加減もよくなられるとよいのですが……」
藤音の身を案じながら桜花は言った。そのための遠海行きなのだ。
「そういえば、遠海には確か天宮のお屋敷があったはずですが」
「ずいぶん前に隠居した祖父が住んでおります」
「では、久しぶりに祖父どのにお会いできますね」
桜花は明るくうなずいた。城下から遠海に移り住んだ祖父に会うのは、何年ぶりになるだろうか。