第55話 朝顔
文字数 547文字
次の日、祖父と一緒に朝餉を取ると、巫女の礼装に着替え、桜花は九条の館へ向かった。
館の門には番人もいるが、藤音の療養をかねての避暑なので、いたってのんびりした雰囲気である。
門番は桜花の顔を見知っているので、軽く挨拶して通り過ぎる。
館で自分に用意された部屋の位置はだいたいわかっている。中庭をぐるりと回ってそちらに行こうとした時だ。
かたわらに朝顔の鉢を置き、縁側に所在なげに座っている姿を見て、桜花はまばたきした。
「隼人さま……」
館の主がこんなところで、ひとりで何をしているのだろう。
桜花が来たのに気づくと、隼人はほっとしたように笑いかけてきた。
「お待ちしていましたよ、桜花どの」
「わたくしを、でございますか?」
不思議な思いで首をひねる桜花に、隼人は朝顔の鉢を示してみせる。
「実は、この鉢を藤音に届けようと思うのですが、ぜひ桜花どのに頼みたいと」
よく手入れされた鉢植えの朝顔は、美しい薄紫の花を咲かせている。
やっと状況を理解した桜花は、微笑しながら返答した。
「残念ながら、お受けできませんわ」
「え?」
あっさりと断られ、今度は隼人が眼をしばたたかせる。
館の門には番人もいるが、藤音の療養をかねての避暑なので、いたってのんびりした雰囲気である。
門番は桜花の顔を見知っているので、軽く挨拶して通り過ぎる。
館で自分に用意された部屋の位置はだいたいわかっている。中庭をぐるりと回ってそちらに行こうとした時だ。
かたわらに朝顔の鉢を置き、縁側に所在なげに座っている姿を見て、桜花はまばたきした。
「隼人さま……」
館の主がこんなところで、ひとりで何をしているのだろう。
桜花が来たのに気づくと、隼人はほっとしたように笑いかけてきた。
「お待ちしていましたよ、桜花どの」
「わたくしを、でございますか?」
不思議な思いで首をひねる桜花に、隼人は朝顔の鉢を示してみせる。
「実は、この鉢を藤音に届けようと思うのですが、ぜひ桜花どのに頼みたいと」
よく手入れされた鉢植えの朝顔は、美しい薄紫の花を咲かせている。
やっと状況を理解した桜花は、微笑しながら返答した。
「残念ながら、お受けできませんわ」
「え?」
あっさりと断られ、今度は隼人が眼をしばたたかせる。