第41話 こんぺいとう

文字数 507文字

「祖父の屋敷は九条のお館から歩いてもほど近く。隼人さまにお願いして、遠海にいる間は祖父の元から通わせていただくことにしました」
「それはよい。祖父どのも喜ばれることでしょう」
 話しながら、和臣は(たもと)から小さな布袋を取り出し、桜花に差し出した。
「そうそう、忘れるところでした。珍しい菓子が手に入ったので、桜花どのにお届けに来たのです」
「お菓子?」
 首をかしげて桜花が布袋の口をほどくと、中には色とりどりの小さな粒がぎっしりと詰められている。
「こんぺいとう、とかいいましたか。桜花どのはお好きだと聞いたので」
 桜花は手の中のこんぺいとうと和臣を交互に見てから、顔いっぱいに笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。嬉しゅうございます」
 無邪気に瞳を輝かせる桜花の姿に、和臣は満足げに微笑した。
 この少女の笑顔は本当に花のようだ。大輪の艶やかさはないが、見る者の心をなごませる可憐な白い花。
 と、障子の陰からひょいと顔を出す者がいた。伊織だ。こちらは着慣れた上着と袴で、兄よりはかなり気楽な身なりだ。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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