第50話 情念

文字数 474文字

 この屋敷も話が途切れると、潮騒が耳に届いてくる。遠く、あるいは近く、繰り返される波の音。
 聞くともなく波音を聞いていると、桜花は昼間感じた不吉な気配を思い出した。
「桜花、いかがした?」
 どう話そうか迷う桜花に、祖父が問いかけてくる。
「実は、こちらに来る時に、一瞬でしたが、不吉な『気』を感じました。おじいさまは心当たりがありませんでしょうか」
「不吉な『気』とな。どのようなものであった?」
「何か、狂おしい情念のようなもの……。わたしには、ここから出たい、と言っているように聞こえました。復讐はまだ終わっていない、とも」
「出たい、と言っておったか。それに復讐とは穏やかではないな」
 腕組みをしたまま、祖父は考えこむ。
「そなたが申すのであれば事実であろう。桜花はこの地に残る、鬼封じの伝承を知っておるかな?」
 身を縮めながら、桜花はいいえ、と返答する。
「まあ、前にここを訪れた時はそなたはまだ子供であったから、知らなくても仕方ないが」




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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