第47話 不吉な「気」

文字数 552文字

 館のほど近くまで来て、桜花はひとり、人々とは別の方向へ足をむけた。行先は祖父の住んでいる天宮の屋敷だ。
 向日葵(ひまわり)の咲く小道を抜け、自然と足が早くなる。懐かしい屋敷はもうすぐだ。
 禍々(まがまが)しい「気」を感じたのは、ちょうど道の先に屋敷が見えてきた時だった。
 ──出タイ。ココカラ出タイ! 復讐ハ、マダ終ワッテハイナイ!
 息が止まるような胸苦しさを覚え、桜花は立ち止まった。心臓がどくんどくん早鐘を打っている。
 確かに今、何かを欲してやまない、狂おしいまでの情念が通り過ぎていったのだ。
 だが、それはほんの一瞬の出来事だった。
 いくら注意深く様子をうかがってみても、あたりには波音が響き、海風が吹くばかりだ。
 しばらくその場に立ちつくしていた桜花は、動悸が収まるのを待って、再び屋敷に向かってゆっくりと歩き出した。
 祖父なら心当たりがあるかもしれない。後で話してみなくては。
 小道の突き当り、古びた木戸をぎぃ、と音をたてて開ける。この木戸も子供の頃に来た時と変わらない。
 平屋のこじんまりとした造り。庭から見える海。裏庭には祖父が栽培している薬草の畑。何もかもが昔のままだ。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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