第100話 海の方角
文字数 644文字
中から出てきたのは白い夜着姿の藤音だった。
裸足で、ためらう様子もなく庭に下り、海の方角へと向かっていく。
ある程度の距離が開くと、桜花と伊織もこっそりと外へ出る。
「そういえば、侍女たちは……」
障子が開けられたままの藤音の居室を見て、二人は息を呑んだ。
侍女たちはある者は壁にもたれ、またある者は床に横たわり、みな眠りこけてしまっている。
声をかけ、肩を揺すってみたが反応がない。まるで何かの術にでもかけられたかのような、不自然な深い眠り。
しかし長居はできなかった。見失ってしまわないよう二人は居室を出て藤音の後を追う。
藤音はまっすぐに海辺へと進んでいく。
とても体調を崩しているとは思えないほど、足どりは軽く、歩くというよりは空 をすべっていくようだ。
その速さは、伊織はともかく、桜花の足では追うのが精一杯だ。
呼吸が苦しい。無理に足を動かしてはいるが、もつれて転びそうになってしまう。
と、よろけた桜花の腕がぐいっとつかまれた。伊織だ。
「大丈夫か?」
桜花はかすかに笑み、ええ、とうなずいた。
伊織がいてくれれば、きっと大丈夫──。
月明かりだけを頼りに藤音を追い、伊織は桜花の手を引いて浜辺を進んでいく。
桜花もまた力強い腕に支えられ、必死に砂を踏んでいく。
いったいどこへ……とは、二人とも口にしなかった。この先には鬼封じの岩がある。
裸足で、ためらう様子もなく庭に下り、海の方角へと向かっていく。
ある程度の距離が開くと、桜花と伊織もこっそりと外へ出る。
「そういえば、侍女たちは……」
障子が開けられたままの藤音の居室を見て、二人は息を呑んだ。
侍女たちはある者は壁にもたれ、またある者は床に横たわり、みな眠りこけてしまっている。
声をかけ、肩を揺すってみたが反応がない。まるで何かの術にでもかけられたかのような、不自然な深い眠り。
しかし長居はできなかった。見失ってしまわないよう二人は居室を出て藤音の後を追う。
藤音はまっすぐに海辺へと進んでいく。
とても体調を崩しているとは思えないほど、足どりは軽く、歩くというよりは
その速さは、伊織はともかく、桜花の足では追うのが精一杯だ。
呼吸が苦しい。無理に足を動かしてはいるが、もつれて転びそうになってしまう。
と、よろけた桜花の腕がぐいっとつかまれた。伊織だ。
「大丈夫か?」
桜花はかすかに笑み、ええ、とうなずいた。
伊織がいてくれれば、きっと大丈夫──。
月明かりだけを頼りに藤音を追い、伊織は桜花の手を引いて浜辺を進んでいく。
桜花もまた力強い腕に支えられ、必死に砂を踏んでいく。
いったいどこへ……とは、二人とも口にしなかった。この先には鬼封じの岩がある。