第110話 薬湯
文字数 555文字
「良薬口に苦しと申します。ここはこらえてお飲みくだされ」
桜花の祖父に熱心に勧められ、藤音は思い切って椀に口をつけた。
とたんに口の中いっぱいに苦さが広がったが、我慢して一気に飲んでしまう。これを何度も飲まされるくらいなら、一度ですませた方がはるかにましだ。
椀を桜花に渡し、藤音は心の底からつぶやいた。
「……不味 い……」
顔をしかめる藤音の横で、桜花がこっそり耳打ちする。
「先日、わたくしも祖父に飲まされました。確かに効き目はありましたが、本当に不味 うございました」
うっほん、と祖父が咳払いする。
「桜花、聞こえておるぞ」
何とはなしにおかしくて、三人はほんのり微笑する。
少しでも藤音の顔に笑みが浮かんだことが、桜花には嬉しかった。
祖父が来てくれたおかげで、場の空気がずいぶんと和 む。
もう桜花も藤音も深刻な話はしない。祖父が熱心に語る薬草の効能に耳を傾けるだけだ。
祖父の講釈を聞いているうちに、外で何人かの足音と話し声がした。中に伊織の声も混じっている。
失礼します、と断ってから、桜花は立ち上がり、戸を開けた。案の定、真っ先に顔を出したのは伊織だった。
桜花の祖父に熱心に勧められ、藤音は思い切って椀に口をつけた。
とたんに口の中いっぱいに苦さが広がったが、我慢して一気に飲んでしまう。これを何度も飲まされるくらいなら、一度ですませた方がはるかにましだ。
椀を桜花に渡し、藤音は心の底からつぶやいた。
「……
顔をしかめる藤音の横で、桜花がこっそり耳打ちする。
「先日、わたくしも祖父に飲まされました。確かに効き目はありましたが、本当に
うっほん、と祖父が咳払いする。
「桜花、聞こえておるぞ」
何とはなしにおかしくて、三人はほんのり微笑する。
少しでも藤音の顔に笑みが浮かんだことが、桜花には嬉しかった。
祖父が来てくれたおかげで、場の空気がずいぶんと
もう桜花も藤音も深刻な話はしない。祖父が熱心に語る薬草の効能に耳を傾けるだけだ。
祖父の講釈を聞いているうちに、外で何人かの足音と話し声がした。中に伊織の声も混じっている。
失礼します、と断ってから、桜花は立ち上がり、戸を開けた。案の定、真っ先に顔を出したのは伊織だった。