第154話 裏切り

文字数 518文字

「そんな……」
 人間の身勝手な仕打ちに、桜花は手をぎゅっと握りしめる。
「ほどなくこの地にあった九条の城で酒宴が催された。表向きは今回の武勲をねぎらって、というものだったが、実は罠だった」
 毒を盛られ、身動きできない浅葱は愕然としながら、声をふりしぼって問うた。
 ──なぜ、です?
 九条辰人は床に這いつくばる浅葱に、冷やかな視線を投げた。
 ──悪く思うな。鬼などの手を借りたとあっては、外聞が良くなくてな。
 ──お約束が違います!
 ──約束だと? 唯姫のことか?
 辰人はふん、と鼻で笑った。
 ──まさか本気で信じていたとはな。誰が化物などに大切な娘をやるものか。
 辰人の本音に浅葱はようやく気がついた。自分は裏切られたのだ。
 いや、この男は最初から、鬼である自分を捨て石にするつもりだったのかもしれない。
 もう用はない、と辰人は容赦なく刀を抜く。
 平常なら浅葱に単なる刀など効かない。だが今の毒で弱った体では致命傷となりうる。
 浅葱は覚悟した。これが人間を信じた結果だ。利用された挙句、自分の命はここで尽きるのだ。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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