第57話 陽だまり
文字数 599文字
隼人と桜花が部屋をたずねた時、ちょうど藤音は床から起きているところだった。
庭から、鉢植えを手にやって来た隼人の姿を見て、藤音は眼をみはった。
あまりに突然の訪問。
考えてみれば、直接に顔を合わせるのは婚礼の夜以来だ。
「まあ、殿! 事前にお知らせくだされば、きちんとお出迎えいたしましたものを」
弾んだ声を上げたのは如月だ。
桜花が初めて藤音に目通りした時とは、態度がだいぶ違っている。どうやら藤音の幸せのために本気で腹をくくったらしい。
あたふたとあたりを片づけようとする如月に、
「ああ、そのままで。急に来たのはわたしなのですから」
と隼人は告げ、いたわりをこめて藤音にたずねかける。
「お加減はいかがですか。昨日は城からここまで駕籠に揺られて、お疲れになったでしょう」
藤音は大丈夫ですわ、と返答した。
「思ったよりは楽でした。昨夜もとてもよく眠れました」
それはよかった、と隼人がにこっとする。春の陽だまりのような笑顔だ。
「夜の間、波の音はうるさくありませんでしたか。わたしは好きですが、中にはあの音が気になるという者もいるので……」
藤音はいいえ、と軽くかぶりを振った。
「わたくしもあの音は好きでございます。まるで子守歌のように心地よくつつみこまれる気がいたします」
庭から、鉢植えを手にやって来た隼人の姿を見て、藤音は眼をみはった。
あまりに突然の訪問。
考えてみれば、直接に顔を合わせるのは婚礼の夜以来だ。
「まあ、殿! 事前にお知らせくだされば、きちんとお出迎えいたしましたものを」
弾んだ声を上げたのは如月だ。
桜花が初めて藤音に目通りした時とは、態度がだいぶ違っている。どうやら藤音の幸せのために本気で腹をくくったらしい。
あたふたとあたりを片づけようとする如月に、
「ああ、そのままで。急に来たのはわたしなのですから」
と隼人は告げ、いたわりをこめて藤音にたずねかける。
「お加減はいかがですか。昨日は城からここまで駕籠に揺られて、お疲れになったでしょう」
藤音は大丈夫ですわ、と返答した。
「思ったよりは楽でした。昨夜もとてもよく眠れました」
それはよかった、と隼人がにこっとする。春の陽だまりのような笑顔だ。
「夜の間、波の音はうるさくありませんでしたか。わたしは好きですが、中にはあの音が気になるという者もいるので……」
藤音はいいえ、と軽くかぶりを振った。
「わたくしもあの音は好きでございます。まるで子守歌のように心地よくつつみこまれる気がいたします」