第131話 守護石の告げし者

文字数 622文字

「あの時、もしあなたが止めてくれなかったら、わたしは死んでいたわ」
 自分では止める術もなく、とめどなく力を放出して、自らを滅ぼしてしまったに違いない。
 伊織も桜花を見つめ、穏やかに笑む。
「桜花が無事でよかった」
 優しい笑顔に涙ぐみそうになった時、ふと高い澄んだ音がした。
 聞き覚えがあるその音は、桜花が祖父から守護石を渡された時と同じ音色だ。
 桜花は急いで懐から小さくたたまれた布を取り出した。
 布を広げ、不思議そうな表情の伊織に示してみせる。
「おじいさまがくださった守護石よ。天河石(てんがせき)というの。持ってみて」
 渡された守護石が、ぽうっと淡く輝く。
 とたんに伊織は片手で額を押さえた。
「どうかしたの?」
 心配そうにのぞきこむ桜花に、軽く首を横に振る。
「いや、大したことはない。最近、妙に額が熱く感じる時があるんだ」
 鬼封じの岩に近づいた時も、桜花に危機が迫った時も、そして守護石に触れた今も。自分の奥深くで何かが呼び覚まされるかように。
 輝く石を手にした伊織の姿に、桜花はまっすぐ視線を当てた。
 魔を封じる者は一対。天女と龍の末裔。予感は確かなものへと変わっていく。
「守護石が教えてくれたわ。破魔の者は伊織、あなただと」
「……」
 桜花を信じないわけではないが、いきなり言われても伊織はとまどうばかりだ。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み