第97話 同じ瘴気

文字数 495文字

「あまり顔色が良くないな」
 少しだけ開けた襖の隙間から二人でのぞきこんでいると、伊織が声をかけてくる。
「昨夜、あまりよく眠れなかったから……。たいしたことないわ」
「無理せずとも俺だけでよかったのに」
 そう言う伊織に、桜花はいいえ、とかぶりを振った。
「確証はないから、隼人さまの前では黙っていたけれど。藤音さまの居室まで行った時、魔の残り香を感じたの。鬼封じの岩の瘴気と同じだった」
 鬼封じの岩、と聞いて伊織の表情が動く。
「では、桜花は藤音さまがあの岩に行かれていると?」
「おそらく」
「だが、行く先があの岩なら、桜花は近づけないのではないか?」
 先日の出来事を思い出して心配する伊織に、大丈夫よ、と笑ってみせる。
「この前は無防備に近づいたから、まともに瘴気を受けてしまったけれど。結界とまではいかなくても、おじいさまに魔除けのやり方を教えてもらったの。多少の時間なら持ちこたえられるわ」
 話しながら、右手の二本の指で印を切る仕草をする。
 実際、自分が行ってどうにかなるのか自信はまるでないのだが、それでも桜花は行かなくては、と心に決めていた。
 隼人のためにも、藤音をこのまま放ってはおけない。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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