第171話 客人
文字数 445文字
「伊織どの……いや、何でもござらん」
十耶は言いかけて口をつぐんだ。
伊織の手前、口には出せなかったが、このまま意識が戻らなければ、遠からず最悪の事態も覚悟せねばならないかもしれない。
不吉な考えを振り払うように、十耶は用件を切り出した。
「実はな、桜花に客人がみえておるのだが」
「客人?」
桜花のかたわらで伊織は首をかしげた。いったい誰だろう。
「今の状況も承知しておられる。お通しいたそうと思うが」
拒む理由はなかった。伊織がうなずくと、部屋に入って来たのは思いがけない人物だった。
「……兄上」
和臣は伊織に軽く笑いかけたが、左腕は白い布で吊るされている。まだ怪我が治っていない痛々しい姿だ。
「どれ、わしは茶でも入れてこようかの」
十耶がさりげなく席を外すと、和臣は伊織と並ぶようにして桜花のそばに腰を降ろした。
「桜花どののお加減はいかがだ?」
「倒れてから意識が戻らず眠ったままです」
蒼白な顔で横たわる桜花に、和臣は言葉を失った。床に伏せているとは聞いていたが、これほど深刻だったとは。
十耶は言いかけて口をつぐんだ。
伊織の手前、口には出せなかったが、このまま意識が戻らなければ、遠からず最悪の事態も覚悟せねばならないかもしれない。
不吉な考えを振り払うように、十耶は用件を切り出した。
「実はな、桜花に客人がみえておるのだが」
「客人?」
桜花のかたわらで伊織は首をかしげた。いったい誰だろう。
「今の状況も承知しておられる。お通しいたそうと思うが」
拒む理由はなかった。伊織がうなずくと、部屋に入って来たのは思いがけない人物だった。
「……兄上」
和臣は伊織に軽く笑いかけたが、左腕は白い布で吊るされている。まだ怪我が治っていない痛々しい姿だ。
「どれ、わしは茶でも入れてこようかの」
十耶がさりげなく席を外すと、和臣は伊織と並ぶようにして桜花のそばに腰を降ろした。
「桜花どののお加減はいかがだ?」
「倒れてから意識が戻らず眠ったままです」
蒼白な顔で横たわる桜花に、和臣は言葉を失った。床に伏せているとは聞いていたが、これほど深刻だったとは。