第60話 囲碁
文字数 572文字
明日は祖父の屋敷から書物でも持ってこよう、と思った矢先。開け放った障子の向こうから伊織がやって来るのが見えた。
伊織も和臣も主な任務は隼人の身辺警護である。
しかし隣国との戦も終わり、領内はいたって平穏ときては、あまりやることがないのは桜花と同じだ。
伊織は桜花の部屋の前まで来ると、片手を上げて笑いかけた。
「暇そうだな、桜花」
「お城にいる時はのんびりしたいと思っていたけれど、いざとなると時間が余ってしまって。あなたは? 伊織」
そうでもなかったな、と伊織は腕組みした。
「けっこう忙しかったぞ。ご家老さまの囲碁の相手を延々とさせられたし」
「囲碁?」
「年かさの重臣たちが囲碁だの将棋だのを持ちこんでは、若い家臣たちの中から相手を探しているんだ。一度つかまると、なかなか放してくれなくて困る。ようやく勝負がついて解放されたところだ」
腕組みしたまま、はあ、と大きなため息をつく。
「和臣さまも?」
「いや、兄上は頭が良すぎるので、対戦相手としては敬遠されているようだ。俺くらいの手合いがちょうどいいらしい」
まあ、と声に出して桜花は笑った。
白河との戦の頃には考えられなかった光景だ。それだけ平和になったということなのだろう。
伊織も和臣も主な任務は隼人の身辺警護である。
しかし隣国との戦も終わり、領内はいたって平穏ときては、あまりやることがないのは桜花と同じだ。
伊織は桜花の部屋の前まで来ると、片手を上げて笑いかけた。
「暇そうだな、桜花」
「お城にいる時はのんびりしたいと思っていたけれど、いざとなると時間が余ってしまって。あなたは? 伊織」
そうでもなかったな、と伊織は腕組みした。
「けっこう忙しかったぞ。ご家老さまの囲碁の相手を延々とさせられたし」
「囲碁?」
「年かさの重臣たちが囲碁だの将棋だのを持ちこんでは、若い家臣たちの中から相手を探しているんだ。一度つかまると、なかなか放してくれなくて困る。ようやく勝負がついて解放されたところだ」
腕組みしたまま、はあ、と大きなため息をつく。
「和臣さまも?」
「いや、兄上は頭が良すぎるので、対戦相手としては敬遠されているようだ。俺くらいの手合いがちょうどいいらしい」
まあ、と声に出して桜花は笑った。
白河との戦の頃には考えられなかった光景だ。それだけ平和になったということなのだろう。