第126話 嗚咽
文字数 605文字
「あの二人に怪我を負わせてしまったのは、わたしなのです」
「そなたが?」
「封印は破られ、鬼は解き放たれました。その鬼が和臣さまに憑りつき、わたしは自分を守ろうと無意識のうちに力を使いました。でも一度、発動した力は自分でも制御できず、和臣さまばかりか伊織まで……」
桜花は口ごもった。あの時の恐怖が生々しく迫ってきて、身体が震え、言葉が出ない。
祖父は怯える桜花に穏やかに語りかける。
「もうよい。大方の察しはつく。無理に話さなくてもいいのじゃよ」
桜花はすがるように祖父を見つめた。
「わたしは自分が恐ろしいのです。本来ならこの力は人々を護り、癒すためのもの。なのに逆に人を傷つけてしまうなんて……」
母が生きていたら、きっと嘆いただろう。思い出の中の母は優しく微笑み、苦しむ人々を癒していたのに。
二人きりの静かな部屋の中、桜花の嗚咽が途切れ途切れに響く。
桜花の祖父、十耶 は、慰めの言葉すら思いつかない自分がもどかしかった。
長い年月を生きてくると、人は大概の出来事には動じなくなる。十耶も同様だ。
だが、こと桜花に関しては別だった。
たったひとりの孫娘が身も心も傷つき、泣いている姿を見るのは忍びない。
何か、桜花のためにできることは……思案する十耶の頭に閃くものがあった。
「そなたが?」
「封印は破られ、鬼は解き放たれました。その鬼が和臣さまに憑りつき、わたしは自分を守ろうと無意識のうちに力を使いました。でも一度、発動した力は自分でも制御できず、和臣さまばかりか伊織まで……」
桜花は口ごもった。あの時の恐怖が生々しく迫ってきて、身体が震え、言葉が出ない。
祖父は怯える桜花に穏やかに語りかける。
「もうよい。大方の察しはつく。無理に話さなくてもいいのじゃよ」
桜花はすがるように祖父を見つめた。
「わたしは自分が恐ろしいのです。本来ならこの力は人々を護り、癒すためのもの。なのに逆に人を傷つけてしまうなんて……」
母が生きていたら、きっと嘆いただろう。思い出の中の母は優しく微笑み、苦しむ人々を癒していたのに。
二人きりの静かな部屋の中、桜花の嗚咽が途切れ途切れに響く。
桜花の祖父、
長い年月を生きてくると、人は大概の出来事には動じなくなる。十耶も同様だ。
だが、こと桜花に関しては別だった。
たったひとりの孫娘が身も心も傷つき、泣いている姿を見るのは忍びない。
何か、桜花のためにできることは……思案する十耶の頭に閃くものがあった。