第105話 同調

文字数 596文字

「鬼が人を惑わせないよう、封印を再び強くすることはできないのでしょうか」
 遠い昔、天女が封じた時のように。
 だが、祖父は腕組みをしたまま、首を横に振った。
「残念ながら、わしにもわからぬ」
 祖父にも手の打ちようがないのなら、桜花にはなす術がない。
「岩の中の鬼は九条家を憎んでおります」
「何じゃと? なぜ?」
「理由はわかりません。ですが、復讐するという声が聞こえ、その矛先は九条家に対してだと感じました」
 桜花はうつむき、きつく唇を噛んだ。
「わたしにもっと力があれば……」
 自分の力のなさが歯がゆかった。このままでは、いずれ封印は破られる。鬼の声を聞き、心を同調させた者の手によって。
 なのに、それがわかっていながら、止められない。
 あまり思いつめるでない、と祖父は桜花の肩をぽん、と叩いた。
「あの岩に行かれたのなら、奥方さまも瘴気を受けておられよう。わしは薬湯を作るでな、そなたはおそばについていてさしあげなさい」
 祖父が炊事場へと離れていくと、桜花はひとり、手拭いを用意して藤音の枕もとに座り直した。
 意識は失われたままだが、苦しいのだろう、額に汗がにじんでいる。
 桜花は真っ白な手拭いで、丁寧に汗をぬぐっていく。
 一連の作業が終わると、布を置き、手を差しのばす。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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