第105話 同調
文字数 596文字
「鬼が人を惑わせないよう、封印を再び強くすることはできないのでしょうか」
遠い昔、天女が封じた時のように。
だが、祖父は腕組みをしたまま、首を横に振った。
「残念ながら、わしにもわからぬ」
祖父にも手の打ちようがないのなら、桜花にはなす術がない。
「岩の中の鬼は九条家を憎んでおります」
「何じゃと? なぜ?」
「理由はわかりません。ですが、復讐するという声が聞こえ、その矛先は九条家に対してだと感じました」
桜花はうつむき、きつく唇を噛んだ。
「わたしにもっと力があれば……」
自分の力のなさが歯がゆかった。このままでは、いずれ封印は破られる。鬼の声を聞き、心を同調させた者の手によって。
なのに、それがわかっていながら、止められない。
あまり思いつめるでない、と祖父は桜花の肩をぽん、と叩いた。
「あの岩に行かれたのなら、奥方さまも瘴気を受けておられよう。わしは薬湯を作るでな、そなたはおそばについていてさしあげなさい」
祖父が炊事場へと離れていくと、桜花はひとり、手拭いを用意して藤音の枕もとに座り直した。
意識は失われたままだが、苦しいのだろう、額に汗がにじんでいる。
桜花は真っ白な手拭いで、丁寧に汗をぬぐっていく。
一連の作業が終わると、布を置き、手を差しのばす。
遠い昔、天女が封じた時のように。
だが、祖父は腕組みをしたまま、首を横に振った。
「残念ながら、わしにもわからぬ」
祖父にも手の打ちようがないのなら、桜花にはなす術がない。
「岩の中の鬼は九条家を憎んでおります」
「何じゃと? なぜ?」
「理由はわかりません。ですが、復讐するという声が聞こえ、その矛先は九条家に対してだと感じました」
桜花はうつむき、きつく唇を噛んだ。
「わたしにもっと力があれば……」
自分の力のなさが歯がゆかった。このままでは、いずれ封印は破られる。鬼の声を聞き、心を同調させた者の手によって。
なのに、それがわかっていながら、止められない。
あまり思いつめるでない、と祖父は桜花の肩をぽん、と叩いた。
「あの岩に行かれたのなら、奥方さまも瘴気を受けておられよう。わしは薬湯を作るでな、そなたはおそばについていてさしあげなさい」
祖父が炊事場へと離れていくと、桜花はひとり、手拭いを用意して藤音の枕もとに座り直した。
意識は失われたままだが、苦しいのだろう、額に汗がにじんでいる。
桜花は真っ白な手拭いで、丁寧に汗をぬぐっていく。
一連の作業が終わると、布を置き、手を差しのばす。