第24話 重い言葉

文字数 423文字

 隼人は藤音から眼をそらすと、身を起こし、床にころがっていた懐剣を手に取った。
「これはわたしが預かっておきます。今夜はお疲れでしょう。わたしは自分の部屋に戻りますから、あなたはゆっくり休んでください」
 起き上がる気力もなく床に横たわったままの藤音を残し、隼人は寝所を出ていった。手にした懐剣がずしりと重く感じられ、振り返ることができなかった。
 政略のための望まぬ縁組なのはわかっていた。それでも時間をかけて少しずつお互いを理解していけば、いつか心は通いあうのでは、と思っていた。
 しかし現実は隼人の甘い考えを打ち砕くものだった。
 弟の仇という言葉が重くのしかかり、藤音と同様、隼人にもどうすればよいのかわからなかった。
 足音が遠ざかっていき、ひとり寝所に残された藤音の眼から、また涙が頬を伝って落ちる。
 死ぬことは許されない。
 かといってこの先、何をよすがに生きていけばいいのだろう。
 藤音はまるで自分が生きながら死んでいる、(しかばね)のような気がした。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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