第144話 銀の髪の鬼
文字数 530文字
かりそめの結界が破られようとする寸前、桜花は叫んだ。
「隼人さま、藤音さま、お下がりくださいませ!」
何としてでも二人を守らなくては。
桜花は守護石をかざし、鬼と伊織と自分を包むように大きな結界を張った。いわば自分たちごと結界内に閉じこめたのだ。
自分の判断の意味を思い、桜花はぽつりと詫びた。
「ごめんなさい、伊織。わたしはあなたの退路まで断ってしまったわ」
鬼から桜花を守るように一歩前に出た伊織が、気にするな、と笑む。
「隼人さまたちを巻きこまないですむ分、戦いやすいというものだ」
「ほう、そこまでして主君をかばうか。健気なものよ」
閉ざされた空間の中。黒い影にしか見えなかった姿が、明確に形どられていく。
その姿は予想に反して美しかった。
豊かに波打つ銀色の髪。彫りの深い顔立ちと淡く青い瞳。漆黒の装束をまとい、額には二本の角のある優雅な若い男──。
「やっと正体を現したな、鬼」
厳しい表情の伊織に、鬼は余裕ありげに微笑してみせる。
「味気のない呼び方をするな。鬼とて名前くらいあるぞ。我が名は浅葱 。亡き母がつけてくれた名だ」
「隼人さま、藤音さま、お下がりくださいませ!」
何としてでも二人を守らなくては。
桜花は守護石をかざし、鬼と伊織と自分を包むように大きな結界を張った。いわば自分たちごと結界内に閉じこめたのだ。
自分の判断の意味を思い、桜花はぽつりと詫びた。
「ごめんなさい、伊織。わたしはあなたの退路まで断ってしまったわ」
鬼から桜花を守るように一歩前に出た伊織が、気にするな、と笑む。
「隼人さまたちを巻きこまないですむ分、戦いやすいというものだ」
「ほう、そこまでして主君をかばうか。健気なものよ」
閉ざされた空間の中。黒い影にしか見えなかった姿が、明確に形どられていく。
その姿は予想に反して美しかった。
豊かに波打つ銀色の髪。彫りの深い顔立ちと淡く青い瞳。漆黒の装束をまとい、額には二本の角のある優雅な若い男──。
「やっと正体を現したな、鬼」
厳しい表情の伊織に、鬼は余裕ありげに微笑してみせる。
「味気のない呼び方をするな。鬼とて名前くらいあるぞ。我が名は