第144話 銀の髪の鬼

文字数 530文字

 かりそめの結界が破られようとする寸前、桜花は叫んだ。
「隼人さま、藤音さま、お下がりくださいませ!」
 何としてでも二人を守らなくては。
 桜花は守護石をかざし、鬼と伊織と自分を包むように大きな結界を張った。いわば自分たちごと結界内に閉じこめたのだ。
 自分の判断の意味を思い、桜花はぽつりと詫びた。
「ごめんなさい、伊織。わたしはあなたの退路まで断ってしまったわ」
 鬼から桜花を守るように一歩前に出た伊織が、気にするな、と笑む。
「隼人さまたちを巻きこまないですむ分、戦いやすいというものだ」
「ほう、そこまでして主君をかばうか。健気なものよ」
 閉ざされた空間の中。黒い影にしか見えなかった姿が、明確に形どられていく。
 その姿は予想に反して美しかった。
 豊かに波打つ銀色の髪。彫りの深い顔立ちと淡く青い瞳。漆黒の装束をまとい、額には二本の角のある優雅な若い男──。
「やっと正体を現したな、鬼」
 厳しい表情の伊織に、鬼は余裕ありげに微笑してみせる。
「味気のない呼び方をするな。鬼とて名前くらいあるぞ。我が名は浅葱(あさぎ)。亡き母がつけてくれた名だ」




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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