第9話「よき話」

エピソード文字数 511文字

「今回の和睦とて、しばらくはおとなしくしていましょうが、軍を建て直せばまた戦をしかけてくるやもしれませぬ」
「何かこう、もっと強くこの和睦の証となるものがほしいところでございますな」
「だけど、和睦の証といっても、いったい何を……」
 顎に手をやって隼人は考えこんだ。盟約というものに確たる証などありはしない。最終的には人と人の信頼でしかないだ。
 城の大広間にしばし流れる沈黙。
 その沈黙を破ったのは、またもや筆頭家老の結城だった。
「おお、そうだ、よき手だてがございます!」
 隼人は警戒してわずかに眼を細めた。だいたい今まで結城の「よき話」などというものは、ろくな話であったためしがない。
「して、結城さま、よき手とは?」
 周囲の者たちにうながされ、家老はごほんと咳払いをひとつした。
「縁組、でございますな」
「は?」
 結城の言葉の意味がわからず、隼人はきょとんとした声を出した。
「白河の林宗久には娘がおります。確か年は数えで二十歳くらいかと。たいそう美しい姫君で、宗久が手放したがらずにこよなく慈しんでいるとか」



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


桜花の幼馴染。始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み