第151話 泉のほとり
文字数 506文字
娘は大きく息を切らせていたが、その時の浅葱には手を貸すなどという考えは思いつかなかった。あまりにも長い間、ひとりきりだったのだから。
木々が少し開け、屋敷が見えてくると、浅葱は脇の小屋を指さした。
──あれでよければ使うがいい。
納戸にしていた小屋だが、野宿よりはましだろう。
ありがとうございます、と娘は何度も頭を下げ、父と共に小屋へと入っていく。
結局、男の傷が癒えるまで浅葱は二人をかくまうことにした。娘の面ざしが少し母と似ていたせいかもしれない。
不思議と娘は自分を怖がらなかった。深い森の中、澄んだ泉のほとりで彼は娘と言葉をかわした。
──父の具合はどうだ?
──おかげさまで少しずつ良くなっております。
不慣れな手つきで水を汲む娘と代わり、桶を持つ。屈託なく礼を述べる娘に、彼は問いかけた。
──そなた、恐ろしくはないのか? 我は鬼ぞ。
いいえ、と娘はたおやかに微笑んだ。
──最初は少し驚いたけれど、あなたはわたくしたちを助けてくれた恩人。感謝こそすれ、怖いなどとは思わないわ。
木々が少し開け、屋敷が見えてくると、浅葱は脇の小屋を指さした。
──あれでよければ使うがいい。
納戸にしていた小屋だが、野宿よりはましだろう。
ありがとうございます、と娘は何度も頭を下げ、父と共に小屋へと入っていく。
結局、男の傷が癒えるまで浅葱は二人をかくまうことにした。娘の面ざしが少し母と似ていたせいかもしれない。
不思議と娘は自分を怖がらなかった。深い森の中、澄んだ泉のほとりで彼は娘と言葉をかわした。
──父の具合はどうだ?
──おかげさまで少しずつ良くなっております。
不慣れな手つきで水を汲む娘と代わり、桶を持つ。屈託なく礼を述べる娘に、彼は問いかけた。
──そなた、恐ろしくはないのか? 我は鬼ぞ。
いいえ、と娘はたおやかに微笑んだ。
──最初は少し驚いたけれど、あなたはわたくしたちを助けてくれた恩人。感謝こそすれ、怖いなどとは思わないわ。